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何かと謎の多い少女であるタバサ。その使い魔、シルフィードは、雌の韻竜である。 韻竜とは、現在では絶滅種とされる古代ドラゴンで、魔法やブレス能力の高さは素より、 人語を理解する上に、自らも巧に人語を操る等、幻獣としては最強クラスの能力を備えており、 実の所、ルイズのスタースクリームと同様、或いはそれ以上に注目されてもいい使い魔なのである。 が、人々はシルフィードの事を‘えらく能力の高い風竜’程度に捉えており、 その理由は、使い主であるタバサ本人が、シルフィードが韻竜である事は隠しているからだった。 何故隠しているかと言うと― 「面倒くさい」 「お姉さま? どうしたの? 何が面倒なの?」 「別に」 今日は学院の授業が無い、虚無の曜日。 タバサにとって、それは格好の読書日和の日でもあった。 授業がある日だと、殆ど把握してる様な魔法の授業に、わざわざ出席せねばならないし、 かと言って図書室で頻繁にサボると、後が五月蝿い。 たまに、ルイズが錬金の魔法に失敗し、授業が強制的に終了する日などは堂々とサボれるので、 ルイズには毎日失敗してもらえないかと、タバサは密かに思っていたりする。 ちなみに先日は、ルイズの使い魔、スタースクリームが授業中、見事に爆発をやらかしたので、 タバサは広場で風に当たりながら、ゆっくりと読書する事ができた。 「きゅいきゅい。つまんないの。 ただでさえ普段から無口なのに、お休みになったら部屋に閉じこもって本の虫だもん」 タバサの自室の窓から、青く巨大な顔を突っ込ませて文句を垂れるシルフィード。 しかし、ベッドの上に腰掛けて無表情のまま本のページを捲るタバサは、それに一切反応しない。 シルフィードも、一方的に喋りかけるのも少々疲れたか、部屋にはしばしの沈黙が流れた。 その間、タバサは本を10ページ程読み進み、次の第3章へと取り掛かろうとした時、 シルフィードが何かに気付いたか、突っ込んでいた頭を外に戻した。 「きゅー! スタースクリーム様! スタースクリーム様ですわ!!」 興奮したシルフィードの声。 タバサが、ちらりと窓の外を見た。 スタースクリームF-22形態が、機体に風呂敷袋を括り付けて、こちらに向かって飛んでくるのが確認できる。 恐らく先日の、ゆかいな蛇君改造大失敗の罰に、町に御使いに行かされていたのであろう。 スタースクリームは方向転換し、この宿舎の、ルイズの部屋の窓へと回った。 間もなく、部屋越しに怒鳴り声が聞こえてきた。 「スタァァ!! ブラシを買い忘れてるじゃない! 買い物すらマトモにできないの!?」 『あ、しまった! お許し下さい、直ちに買いに戻りますゆえ!!』 「当たり前でしょ! 早く行きなさい、この短足! 怖い顔!」 直後、俺だって昔はスタイル抜群でイケメンだったんだよぉぉぉ! と叫びながら、F-22が空へと消えていく。 誰も乗せていない状態なので、最高速度マッハ2以上の飛翔で、文字通り一瞬にして眼中から消え去った。 シルフィードがスタースクリームに惚れ込んでる理由はそこにあった。 「きゅぅん、相変わらずかっこいいですわぁ…。ねー、お姉さま?」 その爬虫類系の顔に付いた、巨大且つ純粋無垢な瞳が、眩しいほどに輝いている。 「速い」 「お姉さまもわかるのですね、スター様の魅力が! わたし、うれしい! きゅいきゅい! なのに、あの桃色使い主ったら! スタースクリーム様の素晴らしさを理解してないんだわ!」 いや、ルイズ自身は十分スタースクリームにぞっこんなのだが、 如何せん例の大失敗事件以来、冷たい態度になっていたのだった。 「ねーねー、お姉さまー、スタースクリーム様って何が御好きなのかしら?」 「知らない」 「じゃあ、スタースクリーム様の事を、よーく知ってる方はいないかしら?」 「スタスク」 「答えになってないよー。スター様に直接聞くだなんて、は、恥ずかしい」 「ルイズ」 「あの桃色さんにだけに聞くのは絶対嫌! 何か負けた気がしちゃう」 「デルフリンガー」 「そうでしたわ! 最近、スター様の傍らに纏わり付いてる方! 希望が湧いて来ましたわ! 一生のお願いですお姉さま! デルフリンガーさんにスター様の好みをお聞き願います!」 「やだ」 「ひどいわひどいわお姉さま。私はお姉さまと2人きりでいる時以外は、喋っちゃ駄目なのにー、にー」 「変身」 「やだやだやだー! 人間に化けるの絶対やだー!」 先住魔法と呼ばれる能力を持つシルフィードは、 人間に変化できると言う、この世界でも類を見ない魔法を使えるの…だが、当の本竜はそれを嫌がってる。 「ね、ね、お姉さま、これまた一生のお願いです、デルフリンガーさんとお話させて下さい! ちゃんと、デルフさんが1人でいる時を見計らうからー。 …やっぱり駄目かな」 「ガーゴイル」 「へ?」 「あなたは竜型ガーゴイル」 「その手がありましたわ! さすがお姉さま、大好き! きゅいきゅい!」 翌日 やあ、皆の超絶大人気者、デルフリンガー様だヨ! フレン…って言った奴は目ん玉引っこ抜いて微塵切りにしてじっくり煮込んで美味しく食っちまうぞ! さてさて、俺様が古き友人スタースクリームの優秀なる武器として生活を送るようになって早ウン日、 今住み着いている、このトリステイン魔法学院って所はこの世の天国だ! ウルトラヘブン!! 今日も今日とて、ルイズっつうヒステリック少女の部屋を抜け出して学院探索だぜ! 可哀相な相棒! さあ、今日はどんな娘ッ子に出会えるのかなー! 楽しみだぜクキャキャキャ!! てな具合に、デルフリンガーは今、走馬灯に浸っていた。 超ロボット生命体トランスフォーマーの動力源であるエネルゴン。ハルケギニアには、んな物は無いので、 これまでデルフリンガーは、水を飲み、それを謎のトランスパワーでなんとかエネルゴンに近い成分に変換し、 どうにか生き抜いてきたが、最近は水だけでは無理が生じ、ついにエネルギーが底を尽きかけていたのだ。 よくもまぁそれで6000年持ったなぁとデルフは自画自賛し(その内何千年かは眠ってたが)、 食堂の厨房前にて、ついに力尽きる。 そして運良く、たまたま通りかかった心優しき黒髪の少女に拾われ、 これまた運良く、厨房内にて赤ワインを摂取したデルフは完全復活を果たしたのだった。 「おうおぅ、なんなら好きなだけ飲んでくれ。いくらでもあるからな」 コック長マルトーは、この生意気ながらもファイトのある小人に、好意的に接していた。 やはりあのギーシュ・ド・グラモンを倒し(てはいないが)たと言う話は、 普段からギーシュを始め、各貴族達をよろしく思ってない、ここの下働き達にとって感激感涙で、 デルフリンガーは一挙にして厨房の人気者となった。 気を良くしたデルフは、一体その小さな体の何処に入るんだと言う勢いでワインを樽飲みし、 あまりの豪快な飲みっぷりに、厨房内は大いに沸いた。 その後、ぐでんぐでんに酔っ払ったデルフ昆虫人形態は、 酔い覚ましにヴェストリの広場を千鳥足で散歩していた。 広場に人影は無い。生徒達は授業中で、この広場は今だけデルフリンガー貸切となっている。 しかし、人間の飲む赤ワインが、よもや完全にエネルゴンの代わりになるとは、 デルフ自身も予想だにしなかったが、かつて飲んだエネルゴンキューブの懐かしい味を思い出し、 大いにご機嫌であった。そう言えば、味だけでなく、色なんかも微妙に似てた気もする。 散歩にも飽きたか、その場にこてんと座り込むデルフ。 いい天気だクキャァ、昼寝でもしようか。と、空を見上げたその時だった。 「こんにちはー、デルフリンガーさんですね? スタースクリーム様の事、いっぱい教えてくださーい!」 突如として、デルフリンガーの目の前に、今がその時だと確信したシルフィードが風と共に舞い降りた。 して、デルフリンガーの反応は 『……ぎいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! ダダダダダダダダダダダダダダダ、ダイノボットどぅぉぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』 「だいのぼっと?」 『来るな!! 迫るな!! 近寄るなああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』 かつてデルフリンガーは、竜の姿を象った敵ロボットに恐怖心を植え付けられた事があり、 それと似たような姿であるシルフィードを目の当たりにし、 デルフの脳内でトラウマが蘇ったかのか、酔いは吹っ飛び、一目散に逃げ出した。 しかし、たとえ素早いデルフリンガーが全速力で走った所で、飛ぶ風韻竜から逃げきれる術は無きに等しく、 あっと言う間に、上半身を丸ごとぱくりと銜えられてしまった。 「んもー、逃げないで下さいよー、もごもご」 『アバババディセプティオプティウィトウィッキィィィィ!!』 悲鳴にもならない奇声を上げながら、どうにかシルフィードの口から逃れるデルフであったが、 力果てその場に身を崩し、4つの眼光が消える。 「わーん、まだ何も聞いてないわよー!」 おおよそその見た目からは考えられない、豊かな表情で悲しみを表現するシルフィード。 とそこに、授業中であるはずのタバサがやって来た。 校舎からは黒い煙が立ち昇っている。どうやら、またルイズかスタースクリームかが何かやらかしたらしく、 その隙にこっそりとここに訪れた様だ。 「あ、お姉さま! デルフさんが死んじゃいましたわ! どうにかしてー」 シルフィードの懸命の訴えに、まるで反応しないタバサ。 「ひどい! お姉さま! ひどい! 人でなし! ろくでなし! 胸なし! あ!」 さすがに最後のは言い過ぎたかと、慌てて口を手を押さえるシルフィードだが、 タバサはそれにも気に留めない様子で、泡吹いて倒れているデルフの元に近寄る。 しゃがんで、杖で頭をこんこんと叩くが、反応は無い。 「デルフリンガー」 ようやく口を開くタバサだが、これにも反応無し。 「フレンジー」 『俺様をその名前で呼ぶなぁぁぁぁぁ!!!』 蘇生、成功。 蘇生後、デルフリンガーは有りっ丈の文句と愚痴と脅迫と悲観を、タバサに訴え続けたが、 表情はおろか、しゃがんだ姿勢も目線も微動だにしない彼女に諦め付いたか、珍しく落ち着いた口調で話しだす。 『…で、その青いダイノボ…ドラゴンはなんなのさ?』 「私の使い魔。風竜型ガーゴイル」 「そ、そうでーす、ガーゴイルのシルフィードでーす」 『クケェーッ、やっぱりダイノボットそのものじゃねーか。で、なんの御用で?』 「スタースクリーム様の事、よーく知ってますよねー? 好きな物とか、解りますか?」 『ああ、相棒と俺は長い付き合いだ、大概の事なら解んぞ』 「きゅいきゅい! それでそれで、スター様のだーいすきな物とは!?」 『反逆』 その夜 「ねー、お姉さまー、ハンギャクってなんなんですのー?」 「謀反。背く。反骨精神の延長」 これで今日だけで通算27回目の、ハンギャクについての質問及び回答の流れである。 タバサは寝間着姿でベッドに腰掛、睡眠前の読書に没頭しているが、 窓から頭を突っ込ませたシルフィードは、眠たい素振りを微塵も見せない。 「ちがうちがーう! スター様がそんな物騒な事お考えになるはずがありませんわ! きっと何か別のハンギャクなのですわ」 「勝手に考えてなさい」 一瞬、シルフィードは凍りつく。 そして、あちゃー、ついにお姉さまを怒らせちゃった、ごめんなさい! お姉さま! と、舌を可愛らしくぺロリと出した後、そそくさと自らの寝床へと帰っていった。 ようやく部屋に静寂が戻り、えんえんずーっと続いたシルフィードの質問攻めから開放されたタバサ。 しかし、彼女とて、おかげで面白い反応は見れたが、デルフリンガーの言った事は気になる。 が、今はまだその答えを導き出せないだろう。デルフも、『反逆』と発言してからは、 スタースクリームの話題を、一切出そうとしなかった。それに関してはあまり話したくは無いらしい。 それだけ考えた後、タバサは本を読み終え床に就いた。 一方、寝床のシルフィードは、相も変わらずハンギャクがなんであるかを、寝ようともせず考え込んでいた。 「卵を硬くなりすぎない程度に煮る……ちがうちがう、それハンジュク」 シルフィードの長い夜が始まった。 長い夜。それは、日夜内部情報戦が絶えない、浮遊大国アルビオンも同様だった。 戦力的に圧倒的に不利な王族派と、最早1つの軍事組織として成り立ちかけている貴族派。 今宵も貴族派が、王族派から横領した土地に建てた軍事施設内で、軍議を行っていたが、 どうやら今回は早めに切上げられたらしい。 今会議室内には、緑色のローブを身に着けた金髪の男と、何故かトリステインの魔法衛士隊の制服姿の男がいる。 金髪の男は、この王族派を牛耳る総司令官である元司教、オリヴァー・クロムウェル。 そしてもう1人。深く被った帽子から見える髭面顔が勇ましいこの男こそが、 クロムウェルの腹心的存在、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドである。 「閣下。失礼ながら、そろそろ‘トラファルガー号’の重要性を教えていただきたい。 でなければ、他の同胞達の士気に係わるのです」 この情報戦は、両派ともが予測していた以上に、長期間引き続いている。 それは、クロムウェルが王族派の所有するトラファルガー号を、執拗に求める所に、戦いが長引く原因があった。 しかしクロムウェルは、何故そうまでしてトラファルガー号を要求するのかを、部下にすら一切口に出してない。 いい加減それに痺れを切らしたワルドが、会議後、直接クロムウェルに問い質したのだった。 「…うむ。ワルド子爵、きみになら話しても構わないだろう。ちなみに、口の硬度の程は?」 「堅い方だと自負しております」 「では…子爵。あのトラファルガー号が、変身するフネであると発表したとして…子爵は信じるかね」 「それは面白い。 戦力強化を考慮しての変身ならば、その様なフネが新開発されていたとしても不思議は無いですな」 「ならば、‘ガンダールヴ戦記’と言う書物を存知てるかね」 「はっ。なかなか興味深い書物でありましたが、かなり妄想も入り混じった内容でもありました」 「あの書物に記されていた、巨大な変身するフネ。それが、トラファルガー号なのだ。 目下の王族との戦いなど、トラファルガー号を得る為だけの争いにすぎんのだよ」 「…?」 一瞬、ワルドの細い目付きが疑問の目に変わったのを、クロムウェルは見逃さなかった。 「どうしたかね? 子爵」 「閣下。その、それは、詰る所、あの本に書かれている事を全て鵜呑みに…」 「している。だから余は‘褐色のスコーピス’も探し求めているのだ。阿呆らしいかね? 余に失望したかね? だから他人には、あまり話したくは無かったのだがね」 「とんでもない。むしろ、凡人の私には到底想い付けない考証をなさる閣下に、より一層感服いたしました」 深々と頭を下げるワルド。 「一応、褒め言葉として捉えておこうか。して、子爵。その褐色のスコーピスの探索の進み具合は」 「目下の所、私が知る中で、最も実力のある盗賊が調査中にございます」 「そうそう、会った事は無いが‘土くれ’とか言ったかね。期待しているよ。今度余に紹介願おうか」 「喜んで」 「この戦い、急ぐ事は無い。両方とも確実に手に入れるまで、ゆっくりと頃合を窺うのだ。 さすれば‘聖地’は我等‘レコン・キスタ’のモノになるであろう。では、余は眠らせてもらうぞよ」 「勝利の確証の程は」 会議室から退出しようとするクロムウェルに、ワルドが最後の質問をする。 「本に書いていただろう。トラファルガー号と褐色のスコーピスが出会った時。それは‘恐怖大帝’…あいや、 ガンダールヴ復活の証だと。始祖ブリミルの使い魔が我等の味方となれば、負ける方が困難であろうて」 「御尤も。では閣下、良き夜を」 「うむ。子爵も、明日は早朝出発であろう? 十分に睡眠をとるが良い」 軽く手を振り、会議室を後にするクロムウェル。1人会議室に残ったワルドは、戸締りをした後、屋外へと出る。 外では、貴族派の介子達が、施設を交代制で警護しており、 さらにその傍らでは、鎖に繋がれた彼の使い魔であるグリフォンが、羽を休めていた。 「お前も今夜はよく休め。明日は長旅になるぞ」 グリフォンがグゥと唸る。ワルドは笑みをグリフォンに送った後、寝室へと帰って行ったのだった。 おまけ 『やはりチョココロネパンは尻尾から齧るに限るな。ねー、ルイズ様?』 「ちょこころねぱん? なにそれ」 すた☆すく 『よっしゃああ!! ついに出来たぞぉぉ!! これで退屈な時間が減る』 「出来たって、なにが?」 『見て判らないんですか、ルイズ様? ゲームですよ! 電子ゲームに決まってるじゃないですか! その名も、‘オプティマスプライムの謎’! さっそくやってみてくだせぇ!』 てってってってってっ… ピーピー! てーれれーれれー ピーッ! ちゃーらーらららららー ちゃーらーらららららー ぼーん てーれれーれれー ピーッ! ちゃーらーらららららー ちゃーらーらららららーららー ぼーん てーれれーれれー ピーッ! ちゃーらーらららららー ちゃーらーらららららーららー ちゃーらー ぼーん てってれってれー てれててーてれーて! 「始まるなりいきなり爆発して終わるんだけど」 『あれ、変だな、どこで間違えた?』 続くかも
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前ページ次ページゼロと魔王 ゼロと魔王 第8話 聖剣杯 第一回戦 「さ〜〜あ!やって参りましたよ聖剣杯第一回戦!!実況はコルベール!」 「解説は学院長であるわしがやるぞ」 なぜかノリノリなコルベールとオールドオスマンが実況解説をしている中で、対戦者同士が睨み合っていた。 「まさか、初戦の相手があなたとはね・・・ツェルプストー!!」 そう言って今にも噛みつきそうなルイズ。 それとは対照的に、余裕そうな態度を崩した様子もなくキュルケは言う。 「初戦があなたとはね・・・これは楽勝なんじゃないかしら?」 「なんですって!?」 「だって、あなた魔法使えないでしょう?」 「ラハール!!あんた絶対に・・・・あんたなんか顔色悪いわよ?」 「初戦の相手はあれか・・・?」 「そうよ!だから絶対に勝たないといけないのよ!」 「オレ様はこの戦い棄権しようかと思うのだが・・・」 ルイズは少なからず驚いた、何せ相手が誰であろうとも突っかかりそうなラハールがそんな事を言ったのだ。 それも心なしか腰がひけているようにも見える。 「馬鹿言ってんじゃないわよ!ツェルプストー相手に棄権なんてヴァリエールの名が泣くわ!!」 「オレ様はな・・・」 「何よ?何かそれ相応な理由g・・・」 「オレ様は、ムチムチな奴が大の苦手なのだ!!」 軽くルイズが凍りついた。 それはそうだろう、まさかラハールにこんな弱点があるなんて少なくとも予想が付かなかったからだ。 だが、今思えばラハールはアンリエッタともかなり距離をとっていた気がする。 「え?・・・何それ・・・?」 「うるさい!それより、棄権だ棄権!」 ラハールがムチムチ嫌いになったのは、過去に色々あったからなのだが・・・ルイズがそんな事を知るはずがない。(詳しくは、ファミ通文庫出版の「魔界戦記ディスガイア HEART OF THE MAOH」を参照) これが別の相手だったら、本来やる気のなかったルイズはこの提案に乗っただろう。 だが、相手がキュルケな時点で何が何でも勝たなければならないと考えているため、この提案に乗るわけにはいかない。 だから、なんとかしてラハールを戦わせる方法がないものか考える。 そして考え付いたのは・・・ 「ふ、ふ〜ん、つまり相手が苦手な相手だからって逃げるんだ?」 「・・・なんだと?」 ラハールを挑発して、なんとかやる気を出させるというものだった。 だが、少なからず心配だったのは自分に後で何かあるかどうかであるが、そんなのを気にしている場合ではない。 「魔王って言っても大した事ないんじゃない?」 「ほほ〜う?あの時のオレ様の力を忘れたか?」 忘れるわけがない、あれほど恐怖したのは初めてなのだから。 「だったら、ツェルプストー倒して見せてよ。魔王だったら出来るでしょう?」 「グッ・・・しかしな・・・」 「な〜んだ、出来ないんだ」 「・・・いいだろう!やってやる!おい、早く始めろ!!」 (・・・もしかして、ラハールって結構バカ?) とか思ったが、乗せる事には成功したのでそれで満足することにした。 「それでは、聖剣杯第一回戦ミス・ヴァリエールVSミス・ツェルプストーの試合を開始します。それでは始め!」 最初に動いたのはラハールで、剣を抜いたと同時に、手の甲のルーンが光ラハールのスピードが加速する。 「さっさと終わらせてやる!」 速攻勝負で終わらせようと考えているのだろう、真っすぐキュルケに斬りかかっていく。 だが、横からキュルケの使い魔のフレイムが吐いた炎がラハールを襲いかかる。 「チッ・・・」 それをマフラーで防いで距離をとる。 「確かにあなたは速いけど、それだけじゃ私には勝てないわよ」 「なら、これでもくらえ!『メガファイア』!!」 ファイア系の魔法のメガ級にあたるメガファイアを投げつける、当然剣を抜いてない状態だと使える魔法は初期魔法だけである。 「『フレイムボール』!」 だが、それをフレイムボールの魔法で相殺される。 力が下がったとはいえ、ラハールのメガファイアを相殺したあたり、さすがトライアングルメイジと言うべきか。 だが、相殺した本人は・・・ (ほとんどノータイムであれ?そのままぶち抜いて勝っとこうと思ったのに・・・これが東のメイジの力ってやつなのかしらね) キュルケとしても、速攻で終わらせるつもりでいた。 この聖剣杯のルールは勝ち上がり方式で、使い魔もしくは主人を倒せば勝利なのだが、あまり一回の戦いで魔力を消耗するのは避けたい。 だから、ルイズを狙うかと思ったがラハールとキュルケの魔法は互角、それプラス相手は接近戦も出来ると来たものだからラハールから注意をそらすのは危険である。 使い魔であるフレイムは、砲台としては使えるだろうが、当然ラハールに接近戦を仕掛けられると確実に負ける。 こうなっては、相手をいかに近づかせないかが大切になってくる。 「さて、この状況どう見ますかオールド・オスマン氏」 「そうじゃのー、ミス・ヴァリエールの使い魔が使う魔法はミス・ツェルプストーが相殺できる。じゃから魔法で倒す方法をとるより、その魔法でいかに接近戦に持ち込めるかが要じゃろうな」 「ほう、それはまたなぜ?」 「ただ突っ込むだけではさっきみたいにミス・ツェルプストーの使い魔が近づけさせない、それにツェルプストーとの連携されたそれはもっと難しくなる。じゃから魔法をうまく使う必要があるわけじゃ。まあ、後はミス・ツェルプストーの魔力切れを狙うかじゃな」 「なるほど、それではミス・ツェルプストーが不利という訳ですな」 「ミス・ツェルプストー側から言ったら、一か八かで大技狙うとかしなくてはならんからな」 「なるほど、ですが大技を繰り出したとしても避けられる可能性があるのでは?」 「じゃから一か八かなのじゃよ。それに、使い魔だけでは抑えきれない可能性があるからの」 「この状況からどうなるか気になりましたな。・・・おおと!ここでミス・ヴァリエールの使い魔が動いた!」 「長期戦なんぞする気はない!すぐに決着をつけてやる!!」 ラハールがとった行動は、長期戦に持ち込むのではなく一気に勝負を決める方法を・・・つまりとりあえず突っ込むである。 だが、当然ただ突っ込むだけではなく今度はファイアの魔法を放って牽制する。 当然ファイアの魔法ではフレイムボールは相殺できないため、飛んできた魔法を避け、そこから一気に距離を詰める。 だが、そこでやはりフレイムの炎により距離を再び取らされる。 もう一度やるかと思ったら声が聞こえてきた。 「まったく・・・見ちゃいられねーな」 「む?何だこの声は?」 「こっちだこっち、おめぇさんの手に握ってるものだよ」 「握っている?剣しか・・・まさか剣がしゃべってるのか?」 「そうだよ、まあその辺の説明は後で誰かに聞きな、それよりお前完全に力押な戦い方してやがるな?」 「チマチマやっていてもしょうがないであろうが」 「それには賛成だが、もうちょっとマシな戦い方ってのがあるだろう」 「ほ〜う?それなら貴様はどんな戦い方をするというのだ?」 「ん〜?そうだな、まずお前さん使える魔法は火系統の魔法だけか?」 「基本的なオレ様の世界の攻撃系魔法は使えるが?」 「そうかい、なら氷出す魔法ないか?」 「あるが?」 「それなら今使える最高の氷系統の呪文を相手に放ちな。放ったらそれと同時に相手に斬りかかりる・・・それで勝てるはずだ」 「よく分からんがいいだろう・・・貴様名前は?」 「オイラはデルフリンガー、デルフとでも呼んでくれ相棒」 「そうか、デルフか・・・オレ様と言う魔王に使われる事をありがたく思うんだな」 「へ〜魔王ね〜、そいつは光栄だ。とりあえずあの娘っ子には負けないでくれよ魔王様」 「当然だ、オレ様は史上最凶の魔王だからな」 「あら?話は終わり?でも、その剣インテリジェンスソードだったのね。少し驚いたわ」 「そんな名前の剣のか?まあいい、今から決着をつけてやろう!」 「へ〜でも私も負けるつもりはないからその辺はよろしくね」 「言っていろ!『メガクール』!!」 ラハールは、そう言うとクール系のメガ級の魔法をキュルケに放つ。 火系統の魔法しか使えないと思っていたのを、さっきの火系統と同じレベルの魔法を放ったことに少し動揺したが、とっさにフレイムボールの魔法で相殺する。 だが、そこで問題が起きる。 「水蒸気!?しまった!フレイm・・・」 自分の使い魔を近くに呼び寄せようかと思ったが、フレイムの名前を言う前に冷たい感触を首に覚えて言葉を止める。 「オレ様の勝ちだ、降参するんだな」 水蒸気が晴れてきて、見ると自分の首に剣が押し当てられていた。 自分の負けは確定したと見ていいだろう。 フレイムは自分を巻き込まない為に、炎を吐けないみたいだ。 「・・・私の負けよ。降参」 「決まったーーーーー!!第1回戦の勝者はミス・ヴァリエールだーーーーーー!!!」 それを聞いた瞬間ラハールは急いでキュルケと距離をとっていた。 「ハァハァ・・・もう2度と近寄りたくないぞ・・・」 「まあ、とりあえず勝利おめでとうだ相棒」 「よくやったわラハール!あのツェルプストーn・・・」 そこで言葉をきったのは、今度はキュルケではなく、自分の首に剣を押し当てられたからだ。 「そういえば貴様、誰が大した事ないんだったか?」 「え、え〜っと・・・勝てたからいいじゃない。ね?」 「ね?ではないわ!!」 「まあまあ相棒、勝てたんだからいいじゃねーか」 「そういえばあんた、そのインテリジェンスソードどこから盗ってきたの?」 「盗ったのではない、倉庫にあったのをもらったのだ」 「倉庫?まあ、いいわ。それより速くここから出ましょう。次の試合が始まるわ」 「それもそうだな、行こうぜ相棒」 「分かった・・・だがさっきの事は後できっちりと教えてもらうからな?」 「え、ええ・・・(チッ!覚えてたか!)」 ラハール達が退場して行くのを冷ややかに見ているのがいた。 タバサである、もっとも、元々あまり感情を見せないからそう感じるだけかもしれないが・・・ その隣には、ローブで顔まで隠した女がいる。 「よかったわね、勝ったわよ」 「・・・そう」 「あれが勝ち上がらないとあなたは、絶好のチャンスを失くすものね。そう、あなたのお母さんを元に戻す方法が・・・ね」 「勝てば・・・」 「ええ、勝てば元に戻してあげるわ。もっとも、勝てればの話だけれどもね。まあせいぜい頑張りなさい」 すると女は人ごみに姿を消していく、それをにらみつけながらタバサは呟く。 「絶対に勝ってやる・・・!」 キュルケあたりが今のタバサを見たら驚いたであろう。 いつも感情を押し殺しているタバサが怒りという感情を見せたのだから・・・ 前ページ次ページゼロと魔王
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前ページ次ページゼロの赤ずきん 今日は虚無の曜日、学院も休みの日であった。 朝、目を覚ましたキュルケは、窓から外を見渡す。 すると、門から馬に乗って出て行く、ルイズとバレッタの姿が見えた。 「予定通り、町に出かけるみたいねー。……」 キュルケは少し考えた後、身支度を済ませ、自分の部屋を出た。 やってきた先はタバサの部屋であった。 タバサは部屋の隅にある椅子に座り、読書を楽しんでいる。 そこに『アン・ロック』の魔法でドアにかけられた鍵を開けキュルケが入ってきた。 入ってくるなり、キュルケは、タバサに用件を話した。 「タバサ、ちょっとお願いがあるんだけど、一緒に来てくれないかしら? ルイズ達が町に行くのは知ってるでしょ?それを追いかけたいのよ」 タバサは短く、ボソッとした声で、自分の都合を友人であるキュルケに述べた。 「虚無の曜日」 「それは、よくわかってるわ、あなたにとって虚無の曜日がどんな日だか。でもねやっぱり気になるのよ、あの使い魔がね」 「あたしは、あの使い魔に、一瞬でも臆したのが納得できないのよ、このツェルプストー家のあたしがよ? それが許せないから、あたしはバレッタのことをもっと知りたいのよ、ね?お願いよ、タバサ」 「それは半分」 その言葉に、目の前の、他人から見た目より幼く見られる友人に、自分の心の内が見透かされていることに感づく。 「心配?」 キレイに整えられた赤い髪がクシャクシャになってしまうほど、キュルケは髪をかき混ぜた。そして悔しそうに言う。 「……ああもう、そうよ、その通りよ!ルイズが心配なのよ。 ったく……使い魔があんなのじゃなかったらこんな風に思わなかったでしょうに、 でもタバサも知ってるでしょ、この前の夜聞いた話から、あの使い魔がどんなに危険かって、 ルイズが手綱をしっかりと握られるなら何も問題はないと思うわ、でもそうならなかったら、 あの使い魔は、今まで起こしてきた惨事よりもっと酷いことを実現するに違いないわ、 ルイズを利用するだけ利用して、使いきった後は切り捨ててね。 そうしたら、ルイズに待つのは身の破滅のみよ。それがあたしにとって容認できないのよ だからってあたしに何かできるのかと言えば、それはわからないけど、とにかく行かないといけない気がするのよ。 それに、あなたの使い魔じゃないと馬に乗って出かけたあのコ達に追いつけないのよ」 タバサは肯定の意味を表すため頷いた。なるほど、と思った。 「ありがとう!……タバサ!」 タバサは再び頷いた、キュルケは友人である。そしてその友人の面倒見が良いところを好いていた。断る理由がなくなった。 タバサは窓を開け口笛を吹いた。 そうすると、タバサの使い魔であるウィンドドラゴンの幼生が現れた。 「いつ見ても、あなたのシルフィードは惚れ惚れするわね」 二人はシルフィードの背に飛び乗った。 すると、二人が乗ったことを確認したシルフィードは、 寮塔に当たって上空に抜ける上昇気流を器用に捕らえ、一瞬で二百メイルも駆け上った。 「どっち?」 タバサが短くキュルケに尋ねた。 「多分、買い物って言ってたから、城下町じゃないかしら、でも確実とは言いがたいわね」 タバサは、シルフィードに命令した。 「馬二頭。食べちゃだめ」 シルフィードは短く鳴いて了解の意を主人に伝えると、青い鱗を輝かせ、力強く翼を振り始め、一気に加速した。 トリステインの城下町を、ルイズとバレッタは歩いていた。 「……ちょっと、あんた買い物しすぎじゃない?いくらお金があるからって」 バレッタは町についてから、手当たり次第に店を回り、様々なものを買っていた。 「女の子は買い物がスキっていうのは皆おんなじでしょっ?ルイズおねぇちゃんも何か買えばいいじゃない?」 「多少は工面して持ってきたけど、誰かさんのおかげで、懐が寂しいのよ」 ルイズは思った。金の亡者というのは、やはり金を使うことも、その範疇に入るのであると。 「なんか、こう、あんたの買い物はもっと強盗じみたもんだと思ってたけど案外普通ね」 「追いかけっこしながら買い物をするのは趣味じゃねーのよ」 あれ……これって、バレッタが、望んで犯罪をするわけではないということかしら。 確かに罪人になれば、動きにくくなる。それは不本意なの? ハンターやってたって言ったけど、それ自体は、別に犯罪ではないしょうし……。 ルイズは目の前が明るく開けたような気がした。久方ぶりに弾んだ声で話した。 「つまり……!つまりは今までわたしに対して言ってきたこと、やってきたは単なる脅しや嫌がらせにすぎないってこと?」 バレッタはルイズを、ちらりと横目で見たあと、ルイズに向き直った。 「そーねぇ、そのとーりよ、誰だって望んで犯罪者になるわけないでしょー?」 気分が高揚したルイズは目を輝かせていた。バレッタの行動に実現性がないとわかったのならば、恐れる必要はなにもない、 つまりは、バレッタを従わせられるチャンスがあるということだ、とルイズは考えた。 「じゃあ……じゃあ!!」 「まぁー、ムカツク奴がいて表立って行動に移せない場合はぁー、そいつが自滅するように仕組むってのが常套手段かなっ♪ 例えば、誰かさんが魔法を失敗する時にぃ、そばに爆弾を仕掛けておくとかぁ」 「……やっぱり、あんた物騒で危険過ぎよ。イヤよ私、自分の魔法で死んだことになるなんて……絶対やるんじゃないわよ」 ルイズは深いため息を吐いた。バレッタの物言いにも若干慣れてきたようだった。いい傾向とはいえないが。 「で?町は結構回ったけど、まだどっか行くところあるわけ?」 バレッタはとある方向に指をさした。 「あの宮殿に、行っきたいなぁ♪」 ルイズたちがいるブルドンネ街から見える、トリステインの宮殿であった。 訝しげな表情をつくりルイズは尋ねた。 「宮殿に行って何すんのよ?女王殿下に拝謁でもするつもり?」 「うーんとね、ルイズおねぇちゃんね。好きなもの一つ買ってくれるっていったでしょ?」 忘れていたルイズの思い出したくない事柄であった。 「うっ……。確かに言ったけど、宮殿に店なんかないわよ?」 「えーとね、あのキレイで立派な宮殿をまるごとルイズおねぇちゃんに買って貰おうかなって♪」 「買えるかっっっっ!!!!!常識でものを考えなさいっ!!!!」 バレッタが頬を膨らせて、不機嫌な表情を作った。 「ぶぅー!ルイズおねぇちゃんのケチぃ。まーいいよ、そしたら最後に武器屋に連れてってちょーだいっ♪」 「武器屋?」 買い物で増えた荷物を一度、馬を預けている駅に置いた後、 二人はバレッタの提案で武器屋の前まで来た。みると、剣の形をした看板が下がっていた。 「武器買うつもりらしいけど、あんたナイフとか意味わかんない銃とか持ってるじゃない、 とゆーかあんたの腕に下げたバスケット、一体何が詰まってるの?そんなんばっかじゃないの?」 「キョーキよっ♪」 「きょうき、ね……凶器と狂気どっちかしら?……多分どっちもね、両方とも道具として使いこなしてるもの。はぁ……」 言い終わると、ルイズとバレッタは石段を登り、羽扉を開け、店の中に入っていった。 店の中は昼間だというのに薄暗く、ランプの明かりがともっていた。壁や棚に、所狭しと 剣や槍が、乱雑に並ばれ、立派な甲冑が飾ってあった。 店主であると思われる、五十がらみの親父が、入って来たルイズを胡散臭げに見つめた。 しかし、相手が貴族とわかると、ドスの聞いた声で喋り始めた。 「旦那、貴族の旦那。ウチはまっとうな商売してまさあ。お上に目をつけられるようなことなんか、これっぽっちもありませんや」 「客よ、一応ね」 ルイズは腕を組んでそう言った。 「こりゃおったまげた。貴族が剣を!おったまげた!」 「なんか知らないけど、買うのはこっちの使い魔よ」 バレッタに指をさした。 「忘れておりました、昨今は貴族の使い魔も剣を振るようで、いや、しかしですな……」 商売っ気たっぷりでお愛想よく言ったのは良かったが、ルイズが指し示した使い魔をジロジロと見て、店主にある種の不信感が沸く。 「こちらのおじょーさんは武器を振るうより、もっとこう、お花摘みのほうがお似合いに見えやすがね」 「そうよね、初見だったらそれが普通なんでしょうけど、それはすぐに誤解だって気づく羽目になるわよ、んで後悔するわ。」 というか、私はここに何も用はないのよ。バレッタ、欲しいものは見つかったの?」 バレッタは煩雑に置かれた、数々の武器の中から、ナイフを物色している最中だった。 「まーぼちぼちってところかしらぁー、今持ってるのと違って、投げナイフとしての消耗品を買うつもりだから、 そんな質は問わないし、そこそこので十分なのよ。っていうか鍛冶技術がいまいちかしらね」 店の主人は思い出したように言った。 「そういや、昨今は宮廷の貴族の方々の間で、下僕に剣を持たすのが流行っておりましてね」 「それってどういうこと?」 ルイズは尋ねた。主人はもっともらしく頷いた。 「へえ、なんでも、最近このトリステインの城下町を、盗賊が荒らしていまして」 「盗賊?」 「そうでさ。なんでも『土くれ』のフーケとかいう、メイジの盗賊が、貴族のお宝を散々盗みまくってるって噂で。 貴族の方々は恐れて、下僕にまで剣を持たせる始末で。へえ」 ルイズは盗賊に興味がなかったが、そば耳立てて聞いていたバレッタが食いついた。 「そいつ捕まえれば、お金になるかしらぁ、っていうか何で『土くれ』なの?顔が土くれみたいってこと?」 主人がバレッタの疑問に答える。 「いや、なんでも、『錬金』の魔法を使って、扉や、壁を粘土や砂に変えて、穴を開けて潜り込んで、盗みを働くって算段らしいでさあ ああ、モチロン武器やなんかも『錬金』で土くれに変えられてしまうらしいですゼ。だから『土くれ』って呼ばれてるってわけで」 バレッタのが怪訝そうな顔に変わった。怒りの感情も混じっている。 「はぁ?ちょっと待てよ。それってどういうことよ」 いきなり、か弱く見える少女が自分より迫力のある声で喋りしたため、主人は一瞬たじろいだ。 「ど、どうといわれましても、何でそんなに怒ってるいらっしゃるか、わかりませんで、なんとも」 「その『錬金』っての困るんだよ」 バレッタがここまで、『錬金』の魔法を危惧するのには理由があった。それは、武器を使って戦うバレッタのにとって、 物質を変えてしまう『錬金』によって手持ちの武器が使い物にならなくなる可能性があると考えたからだ。 これほど厄介なことはなかった。それに加え、町を散策した結果から、文明レベルを見て判断すると、 ここでは、今まで使っている武器の補充が不可能に近いことも、重大さに拍車をかけていた。 つまり『錬金』の魔法への対処はバレッタの死活問題に直結するのであった。 「へ、へえでしたら、値は多少張りますが『固定化』の魔法がかかった武器なんかをお買い求めになっては?」 「『固定化』?」 ルイズが口を挟む。 「あんた魔法について何も知らないのね。いい?『固定化』っていうのは、その魔法をかけた物の風化を止めたり して、物質をそのままの状態に保つものなんだけど、同時に、『錬金』の魔法からも守ってくれるの、わかる? でも、『固定化』の魔法をかけた術者の能力に勝る『錬金』の魔法をかけられたら、『固定化』は無意味になっちゃうの、 つまりは、どっちの魔法が強力かで、決まるのよ。」 「つーまーりー、半端に『固定化』がかかった武器なんか買っても、相手によっては容易に看破されちまうってことか」 バレッタは顎に手をやり真剣に悩んでいる。 ルイズはバレッタが苦心している理由をうすうす気がついていた。 そして、『錬金』の魔法の習得を強く胸に誓うのであった。 「……そういえば、学院の宝物庫なんかには相当強力な『固定化』の魔法がかけられているって話だけど、 そうなら、盗賊なんかが入る心配なんかないわね。おそらくは土系統の『スクエア』のメイジが魔法をかけてるでしょうしね。 というか、バレッタ。たとえ、その『土くれ』のフーケっていう盗賊捕まえたとしても、平民のあんたには 報酬なんて出ない可能性が高いわよ、それに平民が捕まえられるはずがないっていうのが一般見識もあるしね」 明らかに不機嫌とわかる色がバレッタの顔に浮かぶ。 「はぁ?なによそれぇ?……メンドーなとこねぇ、ココ。やり方も工夫しないとイケないわけねっ。 ……まあ、とりあえずー、その問題は後回しねぇ、ところでおーじさん?火薬なんかも置いてなーい?」 「いえ、火薬の類は軍需物資になりますので、こんな木っ端の店には回ってきませんぜ」 バレッタはため息をつく。 「とんだ原始時代にきたもんねぇ、わたし。まぁーいいわ、とりあえずこのナイフ数本と、その手入れ用品をもらおうかかなぁ」 バレッタはそう言うと、カウンターの上にジャラジャラと懐からだした金貨を置いた。 「いや、あの、買っていただけるのは真にありがたいのですがね、まだこちらは値段言ってませんぜ? それにこれじゃぁあ足りませんぜ、せめてこれの倍は出していただかないと」 主人は実に憎たらしげにバレッタにそう言った。 「わたしはぁ、原価から考えて、これでじゅーぶんな利益がでると思うんだけどなぁー」 町を買い物をしながら散策したため、トリステインの物価状況をほぼ把握していたバレッタであった。 「いやいや、ご冗談を、こちらも生活がかかってるもんで」 まるで、からかう様な、軽い口調で主人は言った。こんなガキに値切られてたまるもんか、と内心考えていた。 いや確かに、このガキが出した金の額は実に的を射ているいうか、普通に売るならそれで十分ってもんだが、 商売はそういうものじゃないんでなぁ、鴨がネギしょってやってきたってのに、普通に売ってどうするってんだ。 金を持ってるヤツから多くとらないといけないもんなんだよ。……ヘッヘ。 商売用の笑顔を作って、もみ手をしている主人に、感情の篭っていない冷たい目をくれた後、ルイズに顔だけ向けて言った。 「あのねぇー、ルイズおねぇちゃん。バレッタね、酒場とか、ハンターの寄り合い所とか、コワイおじさん達が集まる所に行くとね、 必ずって言っていいほど、絡まれたり、ナメられたり、足元見られたりしちゃうの。わたしこーゆーふうな見た目でしょ? それはぁ、仕方ないことなんだなーっては思うのよ?でーもぅー、ホントーの困っちゃうの。わかる?」 「わ、わかるけど。イヤ、あんたの言いたいことがわかった気がするわ、……つまり」 「そうよー、つまり、引っ切り無しにそんな奴らの相手してたもんだから、わたし、人を脅す術ばっかり長けちゃったってワケ♪」 主人の方へ向き直り、カウンターにバレッタは両肘をつき、言った。 「相手によって値段を変えるっていう賢い商売するのはいいけどぉ、相手をキチンと選ぼーねっ♪」 荒くれ者達を相手取ってずっと商売をしてきた主人あったので、平然と臆すことなく反論しようとした。 しかし、口を開こうとした瞬間、顔の横を何かが通り過ぎる。そして壁に何かが刺さる音がした。 後ろを振り返ると、店の売り物であるナイフが壁に深々と刺さっているのが見えた。 主人は慌てて向き直るが、そこには先ほどと変わらぬ、にこやかな表情で主人を見つめる少女しかいなかった。 先ほど見た笑顔と同じであるはずのに、今の少女にはそれ以外のものが含まれているように感じられた。 「ねっ♪……それができねぇならよ、全部の商品に値札をさげとけよ」 主人の背筋が凍る。 「へ、へぇ、いやその、あれでして。どうなってやがんだ?これ?」 自分が抱いている少女に対しての感情がいまいち、納得できない主人は混乱していた。 その時、乱雑に積み上げられた剣の中から、声がした。低い、男の声だった。 「こいつぁ、おでれーた!オヤジ、こんな娘っ子に、たじたじじゃねぇか!おめえさんの負けだよ、あきらめな!」 声がする方向を見るが人の影はない、ただ剣が積み上げられている山があるだけだった。 バレッタが声を頼りに近づいて、一つの剣を手に取った。 「なにこれぇ、剣が喋ってんの?」 「やい!剣が喋っちゃ悪いってんのか!娘っ子!というか、おめえみたいな小さいのに剣なんざ似合わないんだよ!はなせ!」 声の主は錆の浮いたボロボロの剣であった。大剣と比べても長さはそう変わらないが、刀身が細めで、薄手の長剣だった。 「それって、インテリジェンスソード?」 ルイズが当惑した声をあげた。 「そうでさ、若奥さま。意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ。いった、どこの魔術師がはじめたんでしょうかねぇ、 剣を喋らせるなんて……。とにかくコイツはやたらと口が悪いわ、客にケンカを売るわで閉口してまして……。 やいデル公!これ以上失礼があったら、貴族に頼んでてめえを溶かしちまうからな!」 デル公と呼ばれた剣は、バレッタの手の中でいっそう騒がしくがなりたてた。 「おもしれ!やってみろ!どうせこの世にゃもう、飽き飽きしてたところさ!溶かしてくれるんなら、上等だ!」 「やってやらぁ!」 主人が歩き出し、バレッタの方へ向かってきた。 しかしバレッタはそれを制止した。 「コレ面白いじゃないっ、名前はデル公っていうの?」 「ちがうわ!デルフリンガーさまだ!さっさと置いて、はなしやがれ!」 「やーねぇ、ホントーに口が悪いわー。あれっ?どうしたのぉ?急に黙って?」 自分のことをデルフリンガーと名乗った剣はバレッタを観察するかのように黙りこくった。 それからしばらくして、剣は小さな声で喋り始めた。 「おどれーた。見損なってた。てめ、『使い手』か。……いや、待てよ。これいいのか? ……真っ黒じゃねえか!?って……うぉ!なんだこりゃあ!このドス黒い魂はっ!?」 一瞬バレッタの顔が、容赦なく険しくなった。 「……ま、まあいいや。てめ、俺を買え」 その言葉を聞くと、バレッタは少し考えるような仕草をした。 「そーねぇ。どうしよっかなぁー。面白いのはいいんだけどぉ……。あっ、そうだ、ルイズおねぇちゃん!」 呼びかけられたルイズは、僅かに首をかしげた。 「なによ」 「一つ何か買ってくれるっていってたでしょ?それなんだけど、この剣にしようかなっって♪」 「えっ!?私が買うの?っていうかそんなのを?その前にあんた、十分すぎるほど金もってるでしょ!? そんな剣一本余裕で買えるでしょ?だって私が持ってたお金だけでも、治癒のための呪文の秘薬が買えるほどあったはずよ!」 満面の笑みでバレッタは言う。 「買って♪」 「ぐっ……!」 ルイズはたじろいだ。 「……わかったわよ、約束は約束だし。買えばいいんでしょ、私が。ていうかなんで私が言いなりになってんの?」 「わーい、アリガトウっ。ルイズおねぇちゃんっ♪」 「毎度あり。じゃあ、デル公のほうは新金貨百で結構でさぁ、厄介払いみたいなもんですからね。 それとそっちのずきんのおじょうさんが、お買い求めになった品の料金は、先ほどお出し頂いた料金で結構でさあ、 ……これ以上とるとなると、何か身の危険を感じずにはいられないもんで。」 ルイズは、意外そうな顔した。 「案外、安くて助かったわ。それでも手持ちの全部だけど……」 料金を手渡すと、主人は慎重に金貨の枚数を確かめた。 「お買い上げありがとう御座いやす。」 剣を手に取り、鞘に収めるとバレッタに手渡した。 「どうしても、煩いと思ったら、こうやって鞘に入れればおとなしくなりまさあ」 バレッタは頷いて、デルフリンガーという名の剣を受け取った。 「よろしくっ!わたしバレッタよっ」 「おうよ。相棒。先々に不安を覚えずにはいられねーが、まあいいや。俺のことはデルフって呼べ」 「そのことなんだけどぉ、あなたのことハリーって呼んじゃダメかしら?」 「ハリー?なんだそりゃ」 「あたしの愛犬の名前よ」 「犬かよっ!!剣なのに犬っておい!つうかなんで紐を括りつけてんだ!?俺ぁ犬じゃねぇ!ちょ、っちょ、 引きずるな!あっ!地面と擦れるっ!段差が!犬の散歩じゃねぇんだから!や、やめっ、やめて!頼むからやめてくれー!!」 紐で括りつけられたデルフリンガーを引きずり、バレッタはスキップで店の戸を開け出て行った。 その様子を、まるで遠い景色を見るような目でルイズは見つめていた。そして、独り言のように呟く。 「私、あの剣と仲良くなれそう……」 前ページ次ページゼロの赤ずきん
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ルイーズ「(黒いとげとげのフルフェイスヘルメットを被って)ゼロと!」 ランサー「ランサーと」 シエスタ「シエスタの!」 「「「コードゼロはんぎゃく日記!!」~」!」 ゼロ「人々よ!私を恐れ、求めるがいい!我が名は、ゼロ!! でもゼロって呼んだらエクスプロージョンで吹っ飛ばす」 ランサー「原作ギアス以上の暴君だなオイ」 シエスタ「こんにちは、魔法学院でメイドのお仕事をさせていただいております、シエスタと申します。 ......それで、ランサーさん、ミス・ヴァリエールは何をしてらっしゃるんですか?」 ゼロ「違うな、間違っているぞシエスタ。我が名はゼロ、胸《チカラ》ある者への反逆者である!」 ランサー「......だそうだ。ま、どうせ変なアニメでも見たんだろ。まったく、最近すっかり金持ちニートに浸食されちまって」 ゼロ「ふ、そんな口をきいていいのかなランサー。 この私の左腕のギアスにかかれば、オマエは3回までどんな命令でも絶対に......」 ランサー「いやいやいや、それフツーに令呪だから。しかもオレ以外に効かないから。 大体、強制《ギアス》は違う魔術だろ」 シエスタ「強制《ギアス》については、詳しくは原作FateのHFルートか、Fate/Zero三巻をご覧になって下さいね」 ゼロ「黙れ!それでもゼロの騎士団0番隊隊長か?!」 ランサー「いつからそんな役職についたんだよ!てかゼロの騎士団って何だ?!」 ゼロ「我々ゼロの騎士団は、胸《武器》を持たない全ての者の味方である! エルフだろうと、ハルケギニア人であろうと! ギーシュ・ド・グラモンは、卑劣にもモンモンより胸の大きなケティと浮気して二人の女性を無惨に傷つけた。 このような残虐行為を見過ごす訳にはいかない。故に制裁を加えたのだ。 私は巨乳を否定しない。しかし、巨乳が微乳を一方的に虐げることは、断じて許さない! (巨乳を)自慢していいのは、(虚無魔法で)撃たれる覚悟のあるヤツだけだ!」 シエスタ「あの、ミス・ヴァリエールは何の話をしてるんでしょう?」 ランサー「あー、判らなくていい」 ゼロ「我々は、胸《チカラ》ある者が胸《チカラ》なき者を虐げる時、再び現れるだろう。 たとえその敵が、どれだけ胸革命《おおきなチカラ》を持っているとしても! 胸《チカラ》ある者よ、我を恐れよ。 胸《チカラ》なき者よ、我を求めよ! 世界は、我々ゼロの騎士団が、裁く!!」 ランサー「はあ、いい加減本題に入りたいんだが......」 シエスタ「その前に私のアニメ準拠設定についての話をするようにってこのカンペには書いてありますよ」 ランサー「あー、じゃあさくっと終わらせてくれ」 シエスタ「はい、それでは一応ご説明いたしますね。 ゼロ魔の原作小説中では、私ことシエスタの容姿については『低めの鼻と、ソバカス』と描写されてますが、 アニメ版では『脱がなくてもスゴい巨乳+ソバカス無し』という主役を狙えるビジュアルに変更してもらっちゃいました」 ゼロ「くっ、戦術的勝利などいくらでもくれてやる!最後に全てを手にするのは、この私だ!!」ゴゴゴゴゴ シエスタ「(ニッコリ笑って)あら、負け惜しみにしか聞こえませんよミス・ヴァリエール」ドドドドド ランサー「やれやれ......てかよ、そもそもこの説明って必要なのか?」 シエスタ「あ、それがですね、このSSの作者はゼロ魔をアニメで初めて見たせいで、 Wikipediaの私についての項を読むまで、私にソバカスがある事すら気付いていなかったそうです。」 ゼロ「そんなバカ、この作者以外に居ないだろう」 ランサー「......もういい加減本題に入るぞ。 今回は四系統の『錬金』がどれだけデタラメな魔法かについてだったな」 ゼロ「ん?『魔法』じゃなくて『魔術』じゃないの?」 ランサー「ハルケギニアの文明レベルならまだ十分に魔法だろ。 だがまあ、タイガーころしあむの限定版に付いてたドラマCDでも 凛『物質変換なんて、どんな大魔術よコレ?!』 って言ってた通り、コッチの現代ではもう魔術に過ぎないがな」 ゼロ「魔術という事は、金と時間さえあれば再現可能ということか?」 ランサー「まあ、ここ最近の話だがな。 銅に中性子なんかの放射線が当たるとニッケルに変化するらしいんだが、 ソレを利用して広島原爆がどの程度の破壊力かが判るんだそうだ」 ゼロ「げ、ゲンバク?チューセイシ???」 シエスタ「ヒロシマって町の名前はおじいちゃんから聞いた様な......」 ライダー「詳しくは、98年の広島原爆投下の日に放送されたNHKスペシャル『原爆投下 10秒の衝撃』をご覧になってください。 NHKスペシャルセレクションとして書籍化もされていますので、そちらは今でも手に入ると思います。 書籍の方は未見ですが、映像の方は当時リア○だった作者にも理解しやすい内容でしたので、気軽に読めるのではないかと。 まあ、内容は重いですが」 シエスタ「へ~、そうなんですか」 ゼロ「ん?誰と話しているシエスタ」 シエスタ「え?こちらの女性と......あれ?居ない。おかしいですね、さっきまで確かに...」 ランサー「...何かあまり突っ込まないほうがいい気がするぞ」 ゼロ「フン、まあいい。 だが、その例は物質変換を目的として行った結果ではないのだろう?」 ランサー「ああ、純粋に物質変換のみをやろうとしたらサイクロトロンでも使わねえ限り無理だな」 シエスタ「さいくろとろん?」 ランサー「ああ、正式名称はサイクロトロン高エネルギー重イオン加速器。 電磁石で光速の50%まで加速した粒子をぶつけて新しい元素を生み出すんだと」 シエスタ「こうえねるぎい?じゅういおん?」 ゼロ「......で、要するにソレを使えば『錬金』と同じく物質変換が可能なのか?」 ランサー「金と時間さえあれば、な。 金1モル(175g)作るのに必要な原子の数は10の23乗個」 ゼロ「じゅ、ジュウノニジュウサンジョウ個って......」 ランサー「100000000000000000000000個。日本の命数法で言えば1000垓個だな。 2001年当時のサイクロトロンでは毎秒10の13乗個=10兆個の原子が作れるから、 金1モル作るには10の十乗秒、つまり100億秒必要になる」 シエスタ「100億秒?それって長いんですか?」 ゼロ「ええっと、10000000000÷60÷60÷24÷365だから...... さ、317年!人間だったら死んでるじゃないの!」 ランサー「つーか電気代だけで確実に1モル以上の金が買えるな」 シエスタ「じゃあ全然意味無いんですね」 ゼロ「だからこそ物質変換は『大』魔術と分類されるのだな」 ランサー「ま、そんな大魔術を小源《オド》のみでやっちまう『錬金』がどれだけデタラメか解ったろ?」 ライダー「ちなみに、今回使用した数字は某徳間書店アニメ雑誌01年8月号に掲載された 伊藤伸平の『バンザイ☆アタック』を参考にしています。数値はあくまで概算だそうですので悪しからず。 単行本化されていないようなので、興味のある方はブックオフなどで探してみてもいいでしょう。 店舗にもよりますが、少し大きめの所なら昔のアニメージュが腐る程置いてあります。 特に3月号がオススメですね。その年の全アニメ作品がデータベース化されていて、意外な発見があったりします。 そう、凛の中の人が黒歴史アニメでは琥珀役だったとか」 ランサー「待て、アレの話題はやめとけ」 シエスタ「あ、さっきの方」 ゼロ「何故解説に出ばって来ている?さっさと『魔眼の使い魔』に帰れ」 ライダー「失礼な方たちですね。私は元々読書が趣味の痴的キャラですよ」 ゼロ「...知的の『知』が間違ってないか?」 シエスタ「ダメですよミス・ヴァリエール、ツッコんだら負けです! ココは作者お得意の誤植ということにしてスルーするんですよ」 ライダー「聞こえてますよ。いいでしょう、その主役を狙える設定とやら、存分に堪能させていただきましょう。 あちらの静かな場所で、じっっっくりと、二人っきりで、ね」ジャラジャラジャラ シエスタ「ああっ、鎖が!やめて、百合の上にいきなりそんなアブノーマルなプレイなんて~!」 ライダー「フフ、大丈夫、痛いのは最初だけですよ」 シエスタ「い~~~~ゃーーー......」(悲鳴が遠ざかって行く) ゼロ「...いいのか?助けなくて」 ランサー「女同士はノーカウントだ。むしろお嬢ちゃんが助けろよ。正義の味方なんだろ?」 ゼロ「いや、彼女は友達のようで肝心な時にいっつも敵として立ちふさがる属性のような気が......」 ギーシュ「そこは中の人が同じなボクのポジションだろう!」 ゼロ「五月蝿い女の敵!どこから湧いて出た?! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが命じる。オマエは、死ね!! エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ......」 ギーシュ「ちょ、ちょっと待てルイズ、それギアスじゃなくってエクスプロージョ......アーッ!」 ズドオォォォ......ォォン ランサー「...それは確実にオーバーキルだろ、勝利する黄金の剣《カリバーン》じゃあるめぇし」 ゼロ「ああ、それで思い出した。wikiについての件なんだが」 ランサー「何でこの流れで思い出すんだよ!」 ゼロ「それが、SSが上手く書ける様になるには、自分の書いた文章を何度も読み直せって某所で言ってたから 作者はそれを実戦していたらしいんだが、一読する度にあまりの駄文っぷりに悶死するんだそうだ。この間なんか 『これはこのオレが作り出した妄想に過ぎん。所詮は二次創作。真作とは成り得ぬSSだ。だが、しかし―――― その妄想も侮れぬ。よもやただの一読で、この身を七度滅ぼすとはな......』 とか嘯いてまっ白になってたぞ」 ランサー「んなコト言ってるウチは大分余裕あんだろ。 ま、要するにwikiにまとめる前に手直しがしたい、と?」 ゼロ「ああ、迷惑な話だ。 奈須先生も言ってただろうに。作品は世に出した時点で死を迎えて、作者の物ではなくなると」 ランサー「ま、欠陥が判っていて放置する方が、作り手の責任放棄と言えなくもないが」 ゼロ「フン、そんな屁理屈通用するか。所詮は作者の愚かさだ。 まあ、このスレ専用まとめwikiも未だ作られていない状況なのだ。まだ時間もあるし、問題無――――」 ランサー「あ~、それなんだが......」 ゼロ「何だ、はっきり言え」 ランサー「作者のリアルが忙しいそうで、1月一杯は更新は無理だそうだ」 ゼロ「なっ、何ですって!?」 ランサー「まあ作者もFate/Zero4巻もゼロ魔最新刊もお預けで仕事(?)してる予定らしいから、勘弁してやれ」 ルイーズ「仕方ないわね...こうなったら、最終回一話前に予定していた嘘最終回予告をやってしまいましょう!」 ランサー「いや2月になったらまた再開するんだが――――」 ルイーズ「いいのよ、一度打ち切りで雑誌《スレ》を移って連載のほうが納まりがいいでしょ? ま、ギーシュを一ヶ月放置っていうのも悪くないし、 ソレ以前にひと月もこの作者の駄文を待ってくれる人自体居ないかもしれないんだから、最終回っぽくしとくのよ!」 ランサー「なんかイロイロと突っ込んではいけない気がするな...それで、嘘最終回って何なんだ?」 ルイーズ「決まってるじゃない、コレよ!」 Zero/stay night 完結編? ルイズ「もしもし、『ルイズが聖杯戦争に殴り込むスレ』のルイズよ、お疲れ様」 作者「え、ルイズさん?」 ルイズ「今日から私が『Zero/stay night』の担当になったわ。」 作者「え?あの、前の担当のギーシュさんは?」 ルイズ「死んだわ」 作者「うそーーーーー!な、何で?!」 ルイズ「実は、初めて出来た彼女に初デートの前にフラレて」 作者「えぇ!それで自ら命を!?」 ルイズ「いえ、ショック死よ」 作者「ショック死?!」 ルイズ「なんか授業中に彼女から別れの手紙が来て、『ありえないんだゼ』とか叫んでバタンとぶっ倒れたわ」 作者「最後までその喋り方だったんですね......」 ルイズ「それで仕事の話に戻るけど、『Zero/stay night』次回で最終回よ」 作者「うそーーーーーー!」 ルイズ「悪く言えば打ち切りね」 作者「わざわざ悪く言わないで下さい!」 ルイズ「もともとあまり人気がなかったけど、前回はぶっちぎりで不人気だったのよ。設定厨全開だったし。 『魔眼の使い魔』より人気なかったわ」 作者「マジすか?てか2つしか投下されてないのに人気投票も何も無いでしょう?! 大体、急に最終回とか言われても困りますよ。私のSS、これから盛り上がって来るトコなのに、他のサーヴァントとか出て来て」 ルイズ「戦いはこれからも続くー、みたいな終わり方でいいんじゃないの?」 作者「二次創作SSでそんな終わり方ってどんだけナメてんですか?! ゼロ魔SSの場合、敵のボスのジョゼフに、タバサの母親が人質に取られてるじゃないですか。 しかもエルフの水の秘薬で心を狂わされて」 ルイズ「『魔眼の使い魔』と被ってるわね」 作者「いや、ゼロ魔原作がそうなんですよ! とにかくそんなワケで、ジョゼフを倒さないと、スッキリしないって言うか......」 ルイズ「そうね」 作者「しかもその為には、いろいろ条件があって、 ガリア王宮の扉を開く為には、サーヴァントを全員倒さなきゃいけないし、ジョゼフを倒すには、始祖の秘宝が必要だし、 しかも今度戦うサーヴァントのバーサーカーは、別名『ザ・フジミ』と呼ばれる程、妙にタフネスで、 11回殺さないと死なないんですよ」 ルイズ「なんでそんな設定にしたのよ」 作者「奈須先生に言ってくださいよ! あとルイズが幼い頃憧れていた婚約者がいて、ゼロ魔原作でも2巻で出て来るんですけど、ソレどうしましょう?」 ルイズ「さあ?まぁ、うまくまとめて頂戴」 作者「はあ......(新しい担当、やたらとツンだなあ......) で、最終回のレスは、何レスもらえるんですか?」 ルイズ「1レスでお願い」 作者「うそーーーーーーー! 何で私そんなにヒドい扱いなんですか?!」 ルイズ「ホント人気無くって」 作者「いや単発の『魔眼の使い魔』だって、毎回1レスなのに」 ルイズ「『魔眼の使い魔』も次回で最終回よ」 作者「えぇ!う、嘘でしょ?(アホ毛王「はい、その通り、嘘ですが」) 『魔眼の使い魔』の最終回は何レスなんですか?」 ルイズ「4レスよ」 作者「チキショーーーーーーーー! も、もうこのスレでは書きませんからね!」 ルイズ「いいわよ、もうこのスレ埋まるし」 最終話 希望を(無い)胸に すべてを終わらせる時...! wikiへのまとめは、未定です。 作者(すいません、登録しました。 まとめ人) ランサー「チクショオオオオ!くらえバーサーカー!新必殺音速火炎死棘の槍《ゲイ・ボルク》!」 バサカ「さあ来いランサァアー!私は実は5回殺されただけで死ぬぞオオ!」 (ザン) バサカ「グアアアア!こ、このザ・フジミと呼ばれるサーヴァントのバーサーカーが... こんな小僧にただの一度で、この身を7度滅ぼされるとは...バ...バカなアアアアアア」 (ドドドドド) バサカ「グアアアア」 ライダー「バーサーカーがやられたようですね...」 ハサン「ククク...奴はサーヴァントの中でも最弱...」 金ピカ「雑種ごときに負けるとはサーヴァントの面汚しよ...」 ランサー「くらええええ!」 (ズサ) 「「「グアアアアアアア」」」 ルイズ「ハァハァ......やったわ...ついにサーヴァントを倒したわ...これでジョゼフのいるガリア王宮の扉が開かれる!!」 ジョゼフ「よく来たなサーヴァントマスタールイズ...待っていたぞ...」 (ギイイイイイイ) ルイズ「こ...ここがガリア王宮だったのね...!感じる...ジョゼフの魔力を...」 ジョゼフ「ルイズよ...戦う前に一つ言っておくことがある。 お前は私を倒すのに始祖の秘宝が必要だと思っているようだが...別に無くても倒せる」 ルイズ「な、何ですって!?」 ジョゼフ「そしてタバサの母はやせてきたのでエルフの水の秘薬で治しておいた。 あとは私を倒すだけだなクックック...」 (ゴゴゴゴ) ルイズ「フ...上等よ...私も一つ言っておくことがあるわ。 この私に幼い頃憧れていた婚約者がいたような気がしてたけど別にそんなことはなかったわ!」 ジョゼフ「そうか」 ランサー「ウオオオいくぞオオオ!」 ジョゼフ「さあ来いルイズ!」 ルイズの勇気が世界を救うと信じて...! ご愛読ありがとうございました! 続くけど......待っててもらえるなら back / Zero/stay night / next
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back / top / next アオとギーシュが決闘してから、一週間以上が経過した。 決闘の後に何者かに倒され、重体の状態でギーシュ(なぜか裸足だった)が発見されたり、 感極まったマルトーがアオの唇に接吻しようとして、シエスタを筆頭としたメイドたちがフルボッコにしたり、 アオのお料理教室が大盛況になったり、 カップリングは『アオ×ギーシュ』か『ギーシュ×アオ』かで、一大論争が巻き起こったりしたが。 おおむね平和だった。 「決めた。明日、街に行くわよ」 ある日の夜。ルイズは握り拳を握りながら、力強く言った。 「? どうしたの、突然?」 アオは裁縫の手を休めて、ルイズを見た。 ちなみに今は、お料理教室生徒百人突破記念グッズ、赤い短衣を着た大猫のぬいぐるみを大量生産しているところだった。すでに六十体を超えるぬいぐるみが部屋中にあふれている。 ルイズも最初は、部屋が狭くなると文句を言っていたが、ここまでくると逆に諦めがつく。 あと、何気に可愛いかったのだ。アオから献上された、ブータと名づけられた二倍の大きさを誇る特別版は、彼女のベッドのお供になるほどのお気に入りであった。 「あんた、あれだけ戦えるんだから、剣だって使えるでしょ? だから剣を買ってあげるわ。 いつまでも石とか、そこら辺にあるもので戦わせてちゃ、わたしとしてもカッコつかないしね」 ここまでが建前。 本音は、やたらとアオの人気が上がって、自分の主としての立場に若干の危機感を覚えた末、ここは一つ、ご主人様の度量の広さを見せねば、と計画した事だった。 剣、すなわち武器を買う。 その事について、アオはまったく異論はなかった。 ルイズは知らないが、ギーシュとの決闘の後、正面切っての戦いでは不利と悟った男連中が、何度か闇討ちや奇襲を仕掛けてきた事があった。 人の目も無いことだったし、そういった連中はきっちりと、死なないレベルで再起不能にしてやった。もちろん証拠を残すようなヘマはしてないため、文字通り闇から闇へだ。 最近は、そういった手合いもいなくなったが、自分にとって未知である魔法を使う相手に、素手や環境利用で対応するにも限界がある。 何時、強力なメイジを相手にするとも限らない。 ルイズの提案は、まさに渡りに船だった。 「街か……楽しみだね」 「でしょ。思いっきり感謝しなさいね」 だからもう寝るわよ、とブータを抱き締め、ルイズは目をつぶった。 次の日。 虚無の曜日、すなわち休日である。 「はふぅ」 枕を抱きしめたまま、キュルケはため息をつく。 彼女は、最近眠れぬ夜を過ごしていた。 原因は、はっきりしている。 ルイズの召喚した平民の使い魔。 アオ。 その名を思うだけで、胸が高鳴る。 ギーシュとの決闘で見せたあの強さ。素手でメイジを倒すだなんて。 しかも、その後のモンモランシーの乱入時に垣間見せた、ユーモアに富んだ優しさ。 「ああ、ダーリン! あなたは、あたしに消えることのない火を点けたのよ。そしてそれは情熱という名の炎に変わったの!!」 キュルケは生まれながらの狩人だった。本来なら、即アタックなのだが。 正直、攻めあぐねていた。 チャンスを狙おうと、ちょくちょくフレイムに監視をさせているのだが、アオの周りには邪魔者が多すぎて、全然独りにならない。 あとルイズも、アオのそばをなかなか離れようとしないのだ。 「気持ちはわかるけどね」 微笑ましくもあったが、しかし、そんな悠長な事を言っている場合ではない。 キュルケは悶々とした挙句、 「よし、ルイズの部屋に行って、彼を口説こう」 爆発した。 そうと決めた彼女の行動は迅速だった。 着替えを済ませ、化粧をし、そして、ルイズの部屋の扉を叩いた。 が、返事が無い。 キュルケはなんの躊躇もなく、アンロックで錠前を外して部屋に入った。 最初に、目についたのは大量のヌイグルミ群である。 「あの娘、趣味が変わったかしら」 以前の殺風景さとはうって変わって、やけに乙女チックになった部屋を見回して首を捻る。 まあ、誤解なのだが。 だが、肝心のアオがいない。ついでにルイズも。 ここで諦めるという選択肢は、キュルケには無い。 タバサは、薄い本を閉じて、顔を赤くして呟いた。 「新世界」 本のタイトルは、『青の薔薇』 著者はケティ。自費出版の本だ。 ちなみに彼女は、今やギーシュ総受け派の旗手として、知る人ぞ知る人物であった。 しばらくぽーっとしていたタバサだったが、はたと正気に戻る。 「これは違う」 ぶんぶんと頭を振ってから、目を閉じて、思い出す。 あの男、アオの事を。 一体、何者だろう。 錬金の授業で、ルイズを助けた時に見せたあの動きから、只者ではないと思っていた。 ギーシュとの決闘で、それは決定的になった。 彼は、強い。 だから知りたいと思った……強くなるために。 だが、観察すればするほど、彼の底が見えなくなる。 決闘の時の彼と、料理教室で料理を教える彼。あまりにも違いすぎる。 それに一つ、気になる事もあった。 一度、自分の使い魔であるあの子、シルフィードに監視させようとしたのだが、できなかったのだ。 アオを見たあの子が、怯えてしまったから。 もう、なんでもいいから彼の事を調べようと手に入れた本だったが、まさかこんな内容だったなんて。 つい没頭してしまった自分に激しく自己嫌悪しながら、本の表紙を見るタバサ。 最初は、綺麗な薔薇の装丁だと思っていたが、内容を知った今だと、ただただ妖しい。 捨ててしまおうか。 でも、本に罪はないし。 タバサが本を手にそんな事を逡巡していると、どんどんとドアが叩かれた。 「タバサ~、居るかしら~?」 キュルケがドアを叩きながら声をかけると、ドアの向こう、タバサの部屋で凄い音がした。 「ちょっと、どうしたのタバサ?」 驚いたキュルケがさらに激しくドアを叩くが、返事がない。 慌ててアンロックで鍵を開け、部屋に入ると、 「……なにやってんの?」 ベッドの毛布に頭を突っ込んで、お尻だけこちらに向けているタバサを発見した。 「何?」 毛布を被ったまま、タバサがぼそっと言った。 キュルケは、そんな親友の姿を不審に思いはしたが、しかし、追求してる場合ではなかった。 「お願い、愛するダーリンがにっくいヴァリエールと出かけたの! しかも馬に乗って!」 ダーリン……ヴァリエール……あの使い魔の事か! キュルケが言い終わるまでもなく、全てを察したタバサが跳ね起きる。もちろん、どさくさに紛れて、本をベッドの下に隠す事は忘れない。 そして窓を開けると、口笛を吹いた。 彼女の使い魔、ウィンドラゴンの幼生、シルフィードが現れる。 「そうなの! あなたのシルフィードで追ってほしいのよ。話が早くて助かるわ」 シルフィードは、タバサを乗せると、遥か上空に飛んで行った。 キュルケを置いて。 「て、それじゃあ意味がないじゃない!!」 程なくして、タバサが戻ってきた。 「どっち?」 無表情のまま、短く尋ねる親友に、キュルケは苦笑いを浮かべることしかできなかった。 トリステインの城下町を、アオとルイズが歩いていた。 けっして広くない道が、人でごった返している。 「今日はお祭りか、何かなの?」 「いつもこんなもんよ。なんせ、ブルドンネ街はトリステインで一番大きな通りだし、宮殿にもつながっているんだから、当然といえば当然ね」 「へ~」 これで大通りなんだ、とか。 狭い、とかは言わないでおいた。 人ごみの合間、合間を、すり抜けるように歩くアオに比べ、ルイズはもみくちゃにされながら前に進んで行く。 ぷぎゃ! とか、ふぎゅ! などの悲鳴も時折聞こえた。 四苦八苦しながら前を行くルイズに、アオが声をかけた。 「ねえ、ルイズ」 「なによ」 「ここって、スリが多い?」 「まさか、あんた!」 ルイズが血相を変えて、振り返る。 「大丈夫。お金は無事だから、安心して」 アオは上着から、財布を取り出して見せた。ルイズから預かった、彼女の財布だ。 それを見てルイズは、ほっと無い胸を撫で下ろす。 「もう、脅かさないでよね。確かにここはスリも多いから、気をつけてよ。まあ、魔法でやられたら一発だけど」 「えっ、貴族がスリをするの?」 「違うわよ。貴族は全員メイジだけど、メイジが全員貴族ってわけでもないの。なかには傭兵や犯罪者もいるわ」 「なるほど。ちょっと数が多かったけど、ある意味運が良かったのか」 「?」 一方こちら、キュルケ&タバサの追跡組。 「これって全部、ダーリンの仕業よね」 ゴクリと唾を飲込んで言ったキュルケの言葉に、タバサが無言で頷く。 ルイズたちが通って行った後に、まるで目印のように所々で、人が倒れている。 皆、昏倒しており、さらに一様に、片腕の人差し指、さらに片足の二箇所があらぬ方向に曲がっていた。 「ん」 タバサの短い呟きに、キュルケは前を見た。 スリの男が、アオにぶつかり、その懐に指を忍ばせようとするところだった。 アオは見もせずに、その指を掴むと、逆に反らす。男の体が前屈みになったところで、空いた手の親指と中指で、後ろから首の頚動脈をつまむ。それだけで、悲鳴も上げられずに男の意識が飛ぶ。同時に軸足の膝を横から踏み折り、地面に落としながら極めていた指を折る。 一連の挙動を、アオは流れ作業のように澱みなく行なった。その間、一度も視線をスリに向けていない。 注意深く見ていなければ、突然倒れこんだようにしか見えなかった。 実際、前を歩いているルイズは、すぐ近くなのに気づいてもいない。 それほどに素早く、静かだった。 「ギーシュってば、命拾いしたわけね」 さすがダーリン、とキュルケが顔を火照らす。 悩ましげに体をくねらす親友の隣で、タバサはそれを冷静に見ていた。 たしかに凄い。けど、それ以上に。 寒くないはずなのに、背中がゾクリと冷えた。 どうしてあんな風に、何の意識も込めずに事を行なえるんだろう。 「ここね」 通りから外れた路地裏に、武器屋は在った。 ルイズが石段を登り、羽扉を開けようと手をかけたところで、アオが止める。 「まって。どうせだから、一緒に入ればいいと思うよ」 「一緒に?」 意味がわからず、怪訝な顔で聞き返すルイズ。 アオは、路地の影に向かって手招きした。 すると人影が二つ、こちらに近づいてくる。 「は、は~い、ルイズ」 バツの悪そうな顔をしたキュルケと、 「……」 視線を合せないように、そっぽを向くタバサだった。 「ツェルプストー! なんであんたがここに!?」 「プレゼント作戦で、ダーリンの気をひこうだなんて。そうは問屋がおろさないわよ、ヴァリエール」 「だ、誰が気をひくですって! てか、ダーリンって誰のことよ」 「も・ち・ろ・ん、この方。アオに決まっているでしょ」 そう言ってキュルケは、アオの腕に自身の腕を絡ませようとする。 ルイズは、その間に体ごと割って入って、阻止した。 「なにするのよルイズ」 「なにするのよ、じゃないわ! 人の使い魔に、なに手を出そうとしてるのよ!!」 「しょうがないでしょ、好きになっちゃったんだから。恋と炎は、フォン・ツェルプストーの宿命。ヴァリエール、あんたが一番ご存知でしょ」 「ぐぬぬぬっっ! よくもまあ、いけしゃあしゃあと」 彼女が宿敵というわけか。 アオは、一歩ひいた状態でルイズとキュルケの舌戦を観戦しながら、以前聞かされた話を思い出した。 袖を引っぱられ、視線を向ける。 「えーと、君は」 「タバサ」 タバサは、簡潔に自己紹介を済ませると、袖を引っぱったまま、店の羽扉を押し開いた。 先に店に入ろうという事か。 二人を見ると、さらにヒートアップしていた。 「そうだね、行こうか」 アオの言葉に、タバサは頷くと、引っぱりながら店に入る。 「何時、気がついた?」 タバサが、疑問を口にする。 自分もキュルケも、気づかれるような失敗はしなかったはずなのに。 「草原を馬で走っている時に、視線を感じてね。あの竜? に乗っていたのが君たちだったんだよね」 そんな最初から……! 「そう」 納得したタバサは、それ以上喋らなかった。 かなり無口な娘だな。 それがアオの、タバサへの印象だった。 武器屋の中は薄暗く、物が乱雑に陳列されている。 アオは、どことなく裏マーケットを思い出していた。 「冷やかしなら、お断りだ。さっさと帰んな」 店の奥でパイプをくわえていた親父が、チラリと一瞥しただけで、面白くもなさそうに言った。おそらく店の主人だろう、年齢より幼く見える小柄なタバサを連れたアオに対して、客だという認識は無い。 そうこうしているうちに、羽扉を乱暴に押し開け、盛大に足音を立てながら、ルイズとキュルケが入ってきた。 「冷か」 「客よ」 ルイズは主人の言葉を遮り、黙らせた。その迫力に、思わずパイプを取り落としそうになる。 そこでようやく、彼女たちが貴族である事に気づいた。 「こ、これは失礼いたしました。いったい貴族さまが手前のような店に何の御用で?」 「わたしの使い魔に、剣を買いにきたの。適当に見繕ってくれないかしら」 「なるほど。ここ最近、暴れまわっている『土くれ』対策ですね」 「土くれ? なによそれ」 「あんた知らないの? 土くれのフーケっていえば、貴族のお宝を専門に盗んで回っている、メイジの盗賊のことじゃない」 キュルケに小バカにされ、ルイズが顔を真っ赤にする。 「し、知ってるわよ、それくらい。だから、それがなんだってのよ」 「へえ、土くれを恐れた貴族が下僕にまで剣を持たせてるってぇ、小耳に挟みましてね。 ……そちらの方でしたら、これがよろしいかと」 そう言って親父は、細身のレイピアを倉庫から持ってきた。 「もっと太くて大きいのがいいわ」 ルイズの言葉に、キュルケが大きく頷く。タバサは無反応だ。 「ですが、そちらの方ですとこの程度が無難かと」 主人は小声で、素人が、と毒づく。 「ちょっといい」 そう言ってアオは、レイピアを手に取った。 剣を握ったとたん、体中に力がみなぎる。この感覚はウォードレスを装着した時と似ていた。 アオは一瞬、戸惑いの表情を見せたが、こちらをじっと見るタバサの視線に気づき、笑って誤魔化した。 「振ってみてもいいかな?」 「ああ。かまわんですとも。店の物にぶつけんでくださいよ」 主人はニヤニヤ笑いながら言った。完全にアオの事をなめている。 ルイズたちに距離をとらせると、アオは素振りを始めた。 最初は、感触を確かめるようにゆっくりと。一振りごとに、ギアを上げてゆく。 一振り、二振りと数を重ねるにつれ、だんだんと主人の笑みが凍りつく。十から先は、誰にも数えられなかった。 刃の動きは、残像すら肉眼で捕らえることができず、絶え間なく聞こえる風切り音だけしか聞こえない。 「ふっ」 アオは短く息を吐き、素振りしていた腕を止める。だが、超速の素振りからの急停止に、レイピアの細い刀身は慣性エネルギーを吸収しきれず、根元から折れた。 「ひっ」 折れた刀身が、主人の頭のすぐ横に突き立つ。 アオは折れたレイピアの柄をカウンターに置き、にっこり笑った。 「すいません。もっと丈夫なのをお願いします」 「は、はい、た、ただ今お持ちします」 直立不動の姿勢から、大慌てで倉庫に駆け込む主人。 折れた剣を手放すと同時に、あの不思議な感覚も消えた。 試しにもう一度握ってみると、とたんにあの感覚が戻ってくる。 他のはどうかと、乱雑に積まれた剣に近づくと、 「坊主。てめ、ひょろっちい体している割には、たいした腕じゃねえか」 突然声をかけられた。 辺りを見回す。 ルイズ、キュルケ、タバサは首を横に振った。 「それ」 タバサが杖で、一本の剣を指し示す。 それは錆の浮いた、お世辞にも見栄えがいいとは言えない大剣だった。 「おう、俺だ俺」 「剣が喋った!」 さすがに驚くアオ。 「あら、インテリジェンスソードじゃない」 ルイズが物珍しそうに剣を見た。 「インテリジェンスソード?」 「意思を持った魔剣の事よ。にしても汚いわね、錆だらけでボロボロじゃない」 「んだと、このチンクシャ!」 「だ、誰が、チンクシャですってええぇぇぇ!!」 キュルケが、腹を抱えて笑っている。 「やい! デル公! お客様に失礼なことを言うんじゃねえ!」 立派な大剣を抱えながら、店の主人が怒鳴り声をあげた。 「誰がデル公だ! デルフリンガーさまだ! ボケ!!」 「あー、うるせえ! 商売の邪魔だ黙ってろ!!」 主人はそう言って、デルフリンガーを鞘に収めた。 とたんに静かになる。 「いや、すいませんね。口は悪いわ、客に喧嘩を売るわで、こっちもほとほと困っているんですよ」 「そんな駄剣、さっさと処分しちゃいなさいよ!」 怒り心頭のルイズ。 「いえね、こいつにも一応元手がかかっていますんで、はい。こうやって鞘に収めれば黙りますんで」 頭を下げながら、デルフリンガーを片付ける。 「旦那、先ほどは失礼いたしました。こいつがうち一番の業物。かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿が鍛えあげた、鉄をも切り裂く魔法の大剣でさ」 「あら、いいじゃない。これにしましょう」 一番という響きが気に入ったルイズは、早速値段を聞いた。 「エキュー金貨で二千。新金貨で三千になりまさ」 「ぐっ、た、高い」 想定以上の金額に、ルイズが思わず呻いた。 「そりゃ名剣ってのは値がはるもんですぜ」 「デルフリンガーはいくらなの?」 「ちょっとアオ! そんな剣、イヤよわたし」 「まあ、あいつなら厄介払いの意味もあって、百でいいですが」 「や、安いわね」 安さに心揺れるルイズ。 「で、でも、やっぱりイヤ。あんな暴言吐くうるさい剣なんて。静かで綺麗なやつがいい!」 ルイズは、イヤイヤと、首を左右に振る。 アオは、ルイズの肩に手を置くと、神々の心をも溶かすような笑顔を浮かべて、優しく言った。 「君にまた何か言うようなら、大丈夫。消してあげるから」 主人から剣を受け取ると、鞘から抜き放つ。 「聞いてたろ? 僕は君を買う事に決めたよ。でもまたルイズに何か言ったら……折るよ」 「おもしれ! やれるもんならやって……」 剣は威勢よく喋り始めたが、とたんに押し黙った。 それからしばらくして、剣は小さな声でぽつりと言った。 「おでれーた。てめ、『使い手』か」 「『使い手』?」 「それにてめ、怖ええな。こんな怖ええやつあ、初めてだ」 使い手? 怖い? 何とか聞き取ったタバサは、剣の言葉に首をかしげた。 「いいだろ、てめに買われるなら文句はねえ。そっちの娘ッ子にも、なんも言わね。 てめ、名は?」 「アオ、だよ。デルフリンガー」 「アオか。俺のことはデルフでかまわねえ。よろしくな相棒」 結局、デルフと投げナイフを十本買って、ルイズたちは店から出てきた。 「じゃ、ここでお別れね。また後でねダーリン」 手をヒラヒラさせながらキュルケは、なにやら考え込んでいるタバサを連れて、去っていた。 「ツェルプストーのやつ。やけにあっさり引いたわね」 まあ、学園に戻ったらまたちょっかいを出してくるだろうけど。 「あんた、キュルケには気をつけなさいよ」 ルイズはアオに念を押すと、馬を預けた駅に向かって歩き出した。 二人が完全にいなくなった後、密かに武器屋に入る赤い髪の人影が。 その夜、武器屋の主人は自棄酒をし、涙で枕を濡らす事になるのだった。 back / top / next
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ルイズは学院の自室で、ベッドの上に寝ころんでいた。 トリスティンの城でアンリエッタに抱きつかれてわんわん泣かれ、ウェールズからはアルビオン王家に伝わる『風のルビー』を渡され、マザリーニ枢機卿からは王室御用達の馬車で「魔法学院視察のついでに」送ってもらい、至れり尽くせりだった。 ウェールズ皇太子を連れて帰った事で、何か怒られやしないかとビクビクしていたが、マザリーニ枢機卿は馬車の中でルイズに礼を言ってきた。 「アンリエッタ姫殿下がこの度のことでご成長なされたのは、ミス・ヴァリエールのおかげです」と。 「そそそそそんな!わわ私は迷惑をおかけするばかりで」 ルイズは緊張と驚きのあまり、どもってしまったらしい。 ルイズの希望で学院の門内まで馬車を入れず、門の前で降りることになった。 あまり目立ちたくないと思ったからだ。 まだ授業の時間中だったせいか、学院の生徒には見られなかったので、ルイズはほっと胸をなで下ろした。 不思議なことに、ルイズは騒がれなかったことに安堵していた。 以前の自分なら、キュルケほどではないにしろ、皆から注目されることを喜んだだろう。 魔法の失敗ではなく、純粋な功績を賞讃しろと言いたくもなっただろう。 だが、それがとても野暮なものに感じたのだ。 右手を挙げる。 意識を集中させると、半透明の腕が現れる。 しかしそこには何かが足りない。 自分を安心させてくれる、何かが… 「ミス・ヴァリエール」 コンコン、と扉が叩かれ、名前を呼ばれた。 ロングビルの声だ、そう言えば桟橋で助けてくれたのに、ロングビルにお礼も言ってない。 ルイズはベッドから飛び起き、慌てて扉を開けた。 「ミス・ロングビル!」 「ミス・ヴァリエール、オールド・オスマンがお呼びですわ」 「あ…報告するのすっかり忘れてた。それと、ミス・ロングビル、あの時は…」 「役目を全うしただけですわ、さ、オールド・オスマンは今か今かと待ちわびています」 ロングビルに促され、ルイズは、学院長室へと移動した。 学院長室の重厚な扉をロングビルがノックすると、扉の向こうから「入りたまえ」と聞こえる。 扉を開けると、いつもと変わらない飄々とした表情のオールド・オスマンが待ちかまえていた。 「ふむ、で、任務はバッチリじゃった訳じゃな」 オールド・オスマンがひげを撫でながら言う。 「はい、ただ…」 ルイズはウェールズ皇太子のことを報告すべきかと、一瞬悩んだが、それをオスマンが制止する。 「おっと、それ以上言わんでいいぞ、何せこれは密命じゃからな、ワシも余計なことまで知る気はない」 「ありがとうございます」 「授業に関しては補習をもうけることも出来るが…まあ、それは追って伝えようかの、とりあえず今日はもう休みなさい」 「はい」 ルイズが学院長室を退室すると、オスマンは背もたれに身体をあずけ、うーむとうなって背伸びをした。 ふとロングビルを見ると、書類を書く手を止めて、なにやら考え込んでいる。 「ミス・ロングビル、どうしたんじゃ? もしかして『せっかくアタシも手伝ったのに全部教えてくれないなんてズルイ!』なーんて拗ねとるのか?」 「もうろくも大概にして下さい、…確かにその通りですが」 「ほっほっほ、まあ予想はつくわい、ミス・ヴァリエールの指にはめられていたのはアルビオン王家の象徴、風のルビーじゃよ、彼女は大物になるかもしれんのう」 「…!」 風のルビーの話で、ロングビルの目つきが一瞬だけ鋭くなったのを、オスマンは見逃さなかった。 ルイズは部屋に戻る前に、あることを試すことにした。 ヴェストリの広場に行くと、丁度授業の終わりを告げる鐘の音が聞こえてくる。 ギーシュと決闘したこの場所で、ルイズは杖を振り上げた。 胸に去来する喪失感を埋めるように。 「宇宙の果てのどこかにいる私のシモベよ…」 任務を成功させた自分の実力を確かめるかのように。 「神聖で美しく、そして、強力な使い魔よッ」 自分の心を満たしてくれる存在を欲するように。 「私は心より求め、訴えるわ」 そしてこれから始まる運命に導かれるように。 「我が導きに…答えなさいッ!!」 …爆発は、起きなかった。 タバサは、空から不思議な光景を目撃した。 ガリアからシルフィードに乗って魔法学院に帰ってきたタバサは、ヴェストリの広場にいるルイズを目撃したのだ。 ルイズの隣には見慣れぬ人物が佇んでいるのを見て、タバサは首をかしげた。 キュルケは、窓の外に見えるタバサとシルフィードを見て、タバサを迎えに行こうと部屋を出た。 しかし、廊下で何人かの生徒が、ルイズのうわさ話に興じていたので、思わず聞き耳を立ててしまう。 そして話の内容を聞き、腹を抱えて笑い出した。 ギーシュは、廊下をどたばたと走り回るマリコルヌを制止していたた。 「風上のマリコルヌ!そんなに走り回っては痩せてしまうよ、…そうか、ダイエットかい?」 「ちちち、違うよ!さっき廊下から中庭を見たら、ゼロのルイズがサモン・サーヴァントを!」 それを聞いた他の生徒が、呆れたように言う。 「なあんだ、ゼロのルイズがまた失敗したのか」 「違うって!成功したんだよ!」 これにはギーシュも驚く。 「何だって!?」 周囲で聞いていた他の生徒達も驚いたが、マリコルヌは更に言葉を続けた。 「もっと驚いたのはさ、召喚されたのが………」 to be continued...? 前へ 目次
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…よく考えたら、何も付き合う必要ないんじゃ…。 本の林の中で、才人はそう思っていた。 目の前には、棚から取り出した本を流し読みするタバサ。 読めているのか、と疑いたくなるようなスピードでぱらぱらとページを繰り、次の本に移る。 事の発端はこう。 『…2回も間違えた』 先週の虚無の曜日、『二人きりのときは本名(シャルロット)で呼んで』という約束を、才人が2回破った。 その罰として、才人は女子寮の屋根の上で朝から昼近くまで『抱っこ』させられていたのだが。 部屋に戻って、床に下りたタバサはみるみる不機嫌になり、その整った眉をへの字に曲げて、そう言った。 『…あんだけ抱っこしてやっただろ』 『…足りない』 むー、とふくれてタバサは言った。 才人は女の子ってのはめんどいなあ、と思いながら、まさかアッチ方面の要求してこないだろうな、と期待半分、不安半分で身構えていたのだが。 何かを思いついたように、タバサはぽん、と手を打った。 『…今度の虚無の曜日』 『…なに?』 『買い物、付き合って』 街の本屋に本を買いに行くので、付き合ってほしいというのだ。 それで済むなら安いもんだ、と才人は軽く請け負ったのだが。 『…どこ行くの?』 『どちらへ行かれるんですか?』 出かけようとするところを、部屋の主人とメイドに見つかってしまった。 休みになにしようが犬の自由だけど浮気だけは許さないんだからそこんとこ覚悟しときなさいよという視線と、 私はサイトさんのこと束縛したりしませんけどこれ以上女の子増やすつもりならそれ相応の覚悟をもって望みますよという視線を受けて、才人はほうほうのていで外へ出た。 …ほんとに、オレ最近流されやすいよな、なんか妙なものに憑かれてるんじゃなかろうか、とか考えながら、才人はタバサと一緒に街に出た。 そして、シルフィードのおかげで、街の本屋の開店直後に、本屋に着くことが出来たのだが。 …もう、昼前なんですけど…。 字の読めない才人にとって、この本の林はただの紙の束の塊に過ぎない。 しかも、その量たるや膨大なものだった。 ハルケギニアには『本の流通』というものがないらしく、本屋には本が溜め込めるだけ溜め込んであった。 しかも、索引などついていないので、目的のものを見つけるには片っ端から見ていくしかないのだ。 本屋の中にはタバサのように、端から本を手にとって読んでいる客がちらほら見える。 しかし、才人とタバサのように、連れで本を探している者はいない。 「…なあ、疲れないのか?」 才人はいいかげん疲れてきていた。ていうか退屈。 「…退屈?」 タバサは、本から目を離すことなく言う。 …正直に言っていいもんだろうか、とか少し悩んだ才人だったが、昼も近いし正直になってみることにした。 「まあ、退屈っちゃ退屈だな」 するとタバサは、手に持っていた本をぱたんと閉じると、棚に戻した。 「昼ごはんにする」 言って、すたすたと店の外に向かって歩き出した。 「あ、おい待てってばタ…」 バサ、と続けそうになる才人を、タバサが振り返って睨みつける。 才人は慌てて言葉を呑み込み、無理矢理言葉を続ける。 「…シャルロット!」 「…よろしい」 満足そうに微笑み、タバサは歩き出した。 …疲れる。 「…本はよかったのか?」 結局一冊も本を買うことなく店を出たタバサに、才人は疑問を投げかける。 人が3人も並べば肩がぶつかりそうになる通りを、タバサが先に、才人がその後ろに続き、歩いていく。 「…別にいい」 そう言って少し先を歩いていたタバサが、少しスピードを緩め、才人の右に並ぶ。 才人はタバサの態度に、何かあるのか?と周りを見渡したが、なにもない。 タバサは才人との距離を少し詰めると、不自然に左手をにぎにぎしはじめた。 …なるほど。 「こうしたいなら言えばいいんだよ」 きゅ、っと才人はタバサの手を握る。 すると、タバサの顔がみるみる赤くなった。 「…子供っぽくない?」 赤い顔のまま、才人の顔色を伺うように上目遣いでタバサは尋ねる。 …かわええ。 …い、いかん、違う道に目覚めそうだ…。 もうすでに道は踏み外しまくってるけどなー、という脳内デルフの突っ込みを無視し、才人は言った。 「そんなことないよ」 そう言って握った手に軽く力を込める。 タバサは嬉しそうに微笑んで、握り返してきた。 二人はしばらくそのまま歩き、適当な食堂に入った。 そこそこ賑わっている下品でない食堂で、席に着くと活発なウェイトレスが注文を取りにきた。 「はいいらっしゃーい!メニューこれねー。とりあえずなんか飲む?」 手渡されたメニューの最初のページにはびっしり何かが書き込んであるが、才人にはさっぱりだ。 「私は氷水。サイトは?」 「んー、あればミルクで」 「じゃあミルク」 二人のやり取りを見ていたウェイトレスが、当然の疑問をぶつけてきた。 「何?お兄さんが注文するんじゃないの?」 「あ、オレ字読めなくてさ」 「お兄さんなのに情けないわねー!妹に字ぃ読んでもらってるの?」 呆れたように言って、ウェイトレスは紙に注文を書き込むと、厨房の方へ行ってしまった。 「はは、兄妹だってさ」 才人は何の気なしにタバサにそう言う。 …返事がない。 見ると、タバサは物凄く不機嫌そうな顔をしていた。 「…妹…」 呟いてさらに不機嫌そうな顔になる。 あ、なるほど。 でもどう見ても、二人を恋人同士に見るほうに無理がある。 才人は、タバサの機嫌を取るようににこやかに話しかける。 「機嫌直せよ」 が、タバサの眉間の皺は納まらない。 はいおまたせー、と先ほどのウェイトレスが飲み物を運んでくる。 タバサはそれを受け取ると、一気に飲み干した。 …荒れてんなー。 飲み干すとタバサは、メニューを広げてウェイトレスに言った。 「ここからここまで全部」 ちょ、まてよ、と止める才人の声も届かず、タバサは続ける。 「…あと氷水大ジョッキで」 ちょっとした宴会くらいは開けるんじゃないか、という量の料理を、タバサはほとんど一人で平らげた。 才人もいくらかつまんだが、タバサの食べっぷりを見ているだけでなんだか胸がいっぱいだ。 タバサは最後のパスタをずぞぞぞぞっ、とすすり終えると、残っていた氷水のジョッキをぐびぐびぐびぷはー、と飲み込んで空にした。 「…完食おめでとう」 思わずそう呟く才人。 しかしタバサはまだ不満そうにしている。 タバサはどこからともなくメニューを取り出すと、呆れて見ているウェイトレスに向かってこう言った。 「あと、このプディング。ホールで」 その食堂の大食い記録をおそらく塗り替えたであろうタバサは、それでも不満そうな顔で、才人の横を歩いていた。 よっぽど兄妹呼ばわりされたのが気に入らないらしい。 …いい加減機嫌直してくんないかなー、と隣のタバサを見ると、その小さな唇の横に、プディングの食べかすがついていた。 「…こんなん残してるから妹呼ばわりされるんだよ」 そう言って才人はそのかけらを指でつまみ、自分の口に放り込む。 すると、タバサの眉間の皺がみるみるうちに解けていく。 …もう、妹でもいい。 タバサは才人の腕にぎゅー、っと抱きつくと、にっこり笑って言った。 「お兄ちゃん♪」 「頼むからソレだけはヤメて…」 その後、結局本屋には寄らず、そのまま学院に帰ることになった。 タバサはシルフィードの上でも嬉しそうに才人の横に寄り添い、始終にこにこしている。 「…いいのかよ、結局本買わなかったじゃないか」 それどころか、街で使ったお金といえば、タバサの食べた昼代のみ。 買い物、と言うわりには何も買っていない。 「…いい」 にこにこしながら、才人の横でタバサは続ける。 「サイトとお出かけしたかった」 く、この、かわいーこと言ってくれんじゃねえか、とか思いながら、しょうがねえ肩くらい抱いてやるか、と才人はタバサの肩を抱く。 タバサは一瞬ぴくん、と身体を強張らせたが、すぐに緊張を解くと、才人を見上げて目を閉じて唇を突き出して見せた。 …あの、これはそのアレですか、「キスして」って解釈でよろしんでしょうか。 才人はその小さな花びらのような唇に吸い寄せられるように自らの唇を寄せていく。 そして二人は、風竜の上で、口付けを交わした。 二人が帰ると、女子寮の入り口でルイズが待ち構えていた。 「いやあのだな!?オレはタバサに頼まれて買い物に付き合ってただけで!」 「へえ?その割にはなにも荷物持ってないじゃない。何を買ってきたのかしら?水色の髪の女の子?」 作り笑顔がものすごくコワイ。 「た、タバサからもなんとか言ってやってくれよ!」 慌ててタバサにフォローを頼む才人だが、タバサはとんでもない事を言ってのけた。 「…キスした」 びきぴっ。 空気が瞬時に凍りつき、その空気に亀裂が入るのが見えた。 「…い・ぬ?」 「ふぁ、ふぁい」 作り笑顔のまま、ルイズの顔がドス黒く染まっていく。 怒りのオーラが周囲を侵食し、まるで結界のように空間を閉じていく。 これが虚無の固有結界…っ!! 「浮気は許さないって言ったわよねえ…?」 「…ひ!」 そんな二人のやり取りを気にも留めてない様子で、タバサはルイズの横を通り抜けて女子寮に入ろうとする。 「ちょっと待ちなさい」 ルイズがそんなタバサを呼び止める。 「アンタも、人の使い魔に手出しといて、挨拶の一つもなし?」 しかしタバサは動じない。 「…サイトを不幸にするなら、私が貰う」 二人の視線の間に、火花が散る。 ぎぎぎぎぎ、とルイズの首がぎこちなく回り、作り笑いを才人に向ける。 「…サイト?私といると幸せよね?」 今は不幸ってーか怖いです。 「…幸せを強要しないで」 タバサはそんなルイズの言葉尻を捉える。 「今は私とこの犬が話ししてるの」 「犬なら話さない」 二人はんぎぎぎぎぎぎぎ、と視線をぶつけ合うと、一瞬で間合いを離し、お互いに杖を構えた。 「お、おいこら二人とも魔法はまずいって!」 結局、ハルケギニアの空を高々と舞ったのは、雪風と虚無の魔法でボロ切れ同然になった才人であった。 〜fin
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」 ヴェストリの広場は、魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にある、中庭だった。西側にある広場なので、そこは日中でも日があまり差さない。決闘にはうってつけの場所であるとギーシュは考えていた。 予想通り、噂を聞きつけた生徒たちで、広場は溢れかえってる。 その中心に佇むギーシュは、優雅な物腰を心がけながらも内心ややイラついていた。 「あの金髪の平民、随分な口を叩いていたけど、まさか逃げたんじゃないだろうね」 食堂から付いてきた取り巻きの一人が言う。 そう、決闘の相手が中々やってこないのだった。 しかし、ギーシュは彼が逃げたとは考えていない。 「それはないだろうね。この場合、使い魔の行動は主の行動だろう。あれだけの侮辱を行なった上に逃げたとなると、ゼロのルイズの面目は地に落ちるよ。ルイズは必ず彼をここに連れてくるさ。戦いに来るか、それとも謝罪によこすかは分からないけれどね」 薔薇を模した杖をぴん、と弾く。 もっとも謝ってきたところで、許す気はあまりない。誠意の見せ方次第だ。 「ギーシュ!」 その時、人垣を掻き分けてギーシュの方へ駆けるように近づいてくる者がいた。ルイズである。 「やあ、ルイズ。申し訳ないがこれから君の使い魔をちょっとお借りするよ。……しかし彼はいったいどこにいるんだ? まさかとは思うが、逃げたのかい?」 「……っ、知らないわよあんなやつ! それよりもギーシュ、バカな真似はやめて! 大体、決闘は禁止じゃない!」 「禁止されているのは、貴族同士の決闘のみだよ。平民と貴族の間での決闘なんか、誰も禁止していない」 「そ、それは、そんなこと今までなかったから……」 言い淀むルイズを、ギーシュは少しだけからかってやろうと思った。使い魔が失礼を働いたのだ。主が少々皮肉を言われても、文句は言えまい。 「ルイズ、君はあの平民が好きなのかい?」 どう反応するか、と思った。 まんざらでもないのならこの性格だから、顔を赤くして否定するだろう。 あるいは、本気で怒り出すか。 「――そんな、こと、」 しかしルイズの反応は、どの予想ともかけ離れたものだった。 彼女の顔が一瞬で蒼白になり、体が心なしか震えている。何か言おうとしているが言葉になっていない。 (……なんだ? 使い魔との間に何かあったのか) ギーシュが怪訝に思った時だった。 「ゼロのルイズの使い魔が来たぞーっ!」 野次馬たちの間からざわめきの波紋が湧いた。そちらに視線を向けると、くすんだ金髪が見えた。ルイズの使い魔が生徒達の層を抜けて決闘の場に入ってくるところだった。 「ふん、ようやく来たか。ルイズ、君は使い魔の側へ行きたまえ。 ――諸君! 決闘だ!」 ギーシュが薔薇の杖を掲げ、うおーッ! と歓声が巻き起こる。 生徒達の声に腕を振って応えながら、ギーシュは使い魔が妙な物を肩から提げていることに気付いていた。 「ブレイブストーリー/ゼロ」-06・a 「それは……何かの武器かい? それを取りに戻っていたから遅れたんだね」 ギーシュは鷹揚な仕草で、使い魔――ムスタディオの持つそれを眺めていた。 全長1メイルはあるだろうか。中心部は金属製の無骨な光を放ち、それを挟んで木製の取っ手と細長い筒が生えていた。 なんだか分からないが面白くなりそうだ、と思う。 「喧嘩じゃなくて決闘なんだろ。で、あんたたちは魔道士だ。素手でやるわけじゃないだろ」 「へぇ、よく分かっているじゃないか。そうだ、メイジである僕は魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」 「代わりにオレは、こいつを使わせてもらうぜ」 「ああ、それが君の剣であるなら何も言わないよ。 言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」 言い放ち、薔薇を振った。舞い落ちた花びらが光をまとい、甲冑姿の女戦士へと姿を変える。 戦乙女ワルキューレを模った、青銅の身体を持つ彼のゴーレムだった。 傍にいたルイズが目の色を変える。 「ちょっと、ギーシュやめなさい! こんなことして何になるのよ!」 「ルイズ、もう決闘は始まってしまったんだ。外野が口を挟むのは無粋だな」 「そういう問題じゃないでしょ! む、ムスタディオもいいから謝りなさい! それにあんた、その武器――」 「ヴァリエール様は外に出ていてくれ」 ムスタディオが短く、しかし妙に存在感のある声を出す。 絶句するルイズを見て、ギーシュは目を細めた。 「いいからどいているんだ、ルイズ。僕は誇りを傷つけられた。許すわけにはいかない。同じ貴族たる君にも分かるだろ?」 「そ、それはあんたが悪かったからでしょ!」 よく通る声で非難するルイズに、薔薇を差し出す。 「僕が非があるのか、そうでないのを決めるのは君じゃない。既に全ての決定権は、この決闘にゆだねられているんだ」 薔薇に口付けをしてみせる。決まった。 「む、無茶苦茶なこ――」 決まったと思ってしまったので、ギーシュはそれ以上ルイズの話を聞かず、 「さあ、行けワルキューレ!」 命令を下されたワルキューレは突貫を開始し、 十メイルほどあった距離をあっという間に縮めんとし、 その先にいたムスタディオが金属の武器を構えるのが見え、 ぱん、と乾いた音が響いた。 その音は、直後に鳴り響いたガラスが砕けるような、そして金属が引き裂かれる不快音にかき消された。 騒がしかった声援や野次が一瞬で消えうせた。ギーシュも何が起こったのかすぐには理解できなかった。 ギーシュとムスタディオの中間で、ワルキューレが動きを止めている。いや、動こうとしているのだが、ぎしぎしと歪に蠢くのがやっとだ。 ――ワルキューレの甲冑の隙間という隙間から、大小様々なつららめいた氷柱が飛び出していた。 それは甲冑を押し広げ、青銅の体は原型を失うほど歪み、破壊されている。 結果、広場の中心に突如として大きな氷の華が花開いたような様相を見せていた。 慌てて華の向こう側にいるムスタディオを見る。構えた武器の筒の先から一筋の煙が上がっていた。 いや、違う。あれは冷気だ。 あの筒から――氷の魔法が飛び出したのか。 その時になって初めて、ギーシュは決闘相手がただの平民でないことを理解した。 「……これだけか?」 ムスタディオのつぶやきが聞こえた瞬間、ギーシュの顔から表情が失せた。 「……そうか、君もメイジだったんだね。厳つい外見にだまされたが、それは杖だったのか。 よかろう、なら僕も容赦はしない!」 ギーシュが薔薇を振ると、花びらが舞って新たなワルキューレが六体現れる。七体のゴーレムによる波状攻撃、これがギーシュの得意とする戦法であった。 先ほどまではただの平民と侮っていたから、一体で充分だと思っていた。 しかしこの相手は、そうはいかない。 全力で倒すに値する。 「美しく舞いたまえ、麗しの戦乙女達!」 ギーシュが薔薇を振り下ろす。それを合図に、六体のゴーレムが次々とムスタディオに向かって突進した。 人垣のざわめきが復活するが、直後に連続で鳴り響く銃声にかき消された。 ◇ 火蓋の切られた決闘を、様々な思惑の元に眺めている者達がいる。 ◇ 決闘を見物しに来た生徒たちの人垣。その最前列に、キュルケの姿があった。 平民と貴族の決闘なんてなぶり殺しである。しかも最近様子のおかしいルイズの使い魔だ。 心配した彼女は、我先に、という勢いで広場にやって来ていたのだった。 「彼、メイジだったのね」 生徒達がギーシュとムスタディオをそれぞれ好き勝手に応援している中、つぶやくように言う。 しかも中々の使い手と見える。皆があっけに取られている内に氷の魔法を次々に撃ち出し(しかも詠唱を必要としない魔法だなんて、見たことない!)、既に全部で三体のゴーレムを撃破していた。 最初はどうなることかと思ったが、これならヘタをするとムスタディオの方が勝ってしまうかもしれない。 少し安心していると、 「違う。あれ、魔法じゃない」 平坦な声の訂正を入れられ、キュルケは傍らを見下ろした。 タバサだった。最初は一緒にいなかったが、彼女の身長では人垣の中からは見えなかったのだろう。最前列に出てきたところを見つけて捕まえたのだった。 「あんたが野次馬根性発揮するなんて、珍しいわね」 そうからかってみたが、すぐに違うことに気付く。 タバサはいつもの通り無表情だったが、これは無表情を装おうとしているものだ。親友であるキュルケにはそれが分かった。 何を動揺しているのだろう、と不思議に思ったが、同時にタバサが他人に興味を持つのは珍しいことなので、それはそれで楽しい。 (さてはこれは、一目惚れかしら!) 恋に生きるツェルプストーが一人、微熱のキュルケは実に勝手な解釈をするのだった。 「で、それはそうと魔法じゃないってどういうこと?」 返事はない。 タバサは食い入るように、戦いを見守っている。 ふとキュルケは、そのタバサの両手に見慣れない手提げ袋があることに気付く。 握り締められて形の崩れた袋は、中に収まっている物のシルエットをあらわにしていた。 (珠か、石ころか何か……二つ、かしら?) そんなことを考えた瞬間、金属と金属がかち合うような鈍くて重い音が腹に響く。 慌てて広場に視線を戻したキュルケが見たのは、ゴーレムに体当たりを食らい、杖のようなものを弾き飛ばされるムスタディオの姿だった。 ◇ 「ふむ、どうも雲行きがおかしくなってきたのう」 そこは学院長室だった。 魔法で形作られた『遠見の鏡』を維持しながら、オールド・オスマンがコルベールに話しかける。 鏡に映し出されているのはヴェストリの広場、その中心で行なわれている決闘の模様である。 金髪の使い魔がゴーレムの体当たりを受ける。彼は最初の勢いで三体を倒したのはいいが、その後は数に物を言わされて苦戦しているようだった。 オールド・オスマンは、その右手に刻印されたルーンが淡い光を発しているのを見つめている。 「確かに君が持ってきた文献にある紋様と同じものじゃの。それに中々強力な魔法の使い手のようじゃ。しかし――伝説にあるガンダールヴの能力とはちと外れてはおらんかの?」 「そ、そのようですな……」 コルベールが興奮した様子で学院長室に飛び込んできたのは、少し前のことだ。彼はムスタディオのリハビリの際にスケッチさせてもらったルーン文字が、始祖ブリミルの使い魔、ガンダールヴのものに酷似していることを突き止め、その報告に来たのである。 しかし少し妙な事態になっている。伝承にあるガンダールヴは主人の呪文詠唱の時間を守るために特化した存在で、あらゆる『武器』を使いこなし、千人の軍隊を撃退するというものである。 しかしコルベールが熱っぽく説明している傍で始まった決闘を見てみると、たった六体のゴーレムに苦戦し、しかも肉弾戦が主体ではないようだ。 「し、しかしまだ始まったばかりですし、彼がその能力を余すところなく発揮しているとも限らんでしょう」 コルベールは禿げた頭に光る冷や汗をハンカチで拭きながら、様子を見ましょうと促す。 「……いや、ワシとて彼がただの使い魔とは思っとらんよ。 ただ、何か条件みたいなものがあるのかと考えているだけじゃ」 「条件?」 オールド・オスマンは質問には答えず、代わりにこんなことをのたまった。 「あと彼、周囲の生徒達のことも考えて立ち回っておるようじゃのう」 ◇ 「――ふうん。あの杖、ああいう風に使ったらいいのね」 土くれのフーケは誰にでもなく、そう言った。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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前ページ次ページゼロの騎士団 ゼロの騎士団-外伝 「真・使い魔感謝の日」 もし、貴方の悩み事を相談して下さいと言われれば、こう答える――主がおかしいのです。 正確には仮の主だが、それでも、ここ最近の自分の主が変だと感じる。 それまで、自分にとっての主とは、主より遅く起きたら鞭で叩かれ、 魔法の失敗を笑うと吹き飛ばされ、少し主の身体的冗談を言っただけで拳が飛び、 身の回りの世話もどきをさせられる……。 言ってから悲しくなったが、それが自分にとってのこの世界の主と言う物だ。 異変は最初、この間の飲み会で遅くなり、部屋に帰って朝寝過した時だった。 「……起きて、ニュー」 少女の声でぼんやり目を開けると、見慣れた少女の顔――ルイズの顔が見える。 自分の顔を覗き込んでいるのだろう、彼女の髪の匂いが自分の嗅覚から脳へと伝達する。 ……しまった! 完全にでは無いが、かろうじて、そう思う事だけはできた。 とりあえず、体を強引に起こす、意識は地面にある気がするが、それを気にしている暇はない。 「おはよう、ルイズ、早起きだな、すまない水汲んでく……」 頭に手を当てて、その場にうずくまる。飲みすぎたのだ、突き刺すような頭痛でそれがすぐに理解できた。 ルイズの方を見ようと、顔を向けるが、視界がぼやける。目の前にあるのはコップに注がれた水であった。 「はい、お水よ、アンタ昨日は遅かったみたいじゃない、これでも飲みなさいよ」 どうやら、その水は飲んでいいものらしい。しかし、手が動かない訳ではないがそのコップを取れなかった。 「ルイズ……その……それはお前がくんできたのか?そして、それを飲んでいいと?」 理由が欲しかった、ただ、なんとなく。 「当たり前じゃない、私だってそのくらいは出来るわよ、それにお父様も良くこうやって母様が介抱してたわ」 呆れ顔のルイズがニューに水を更に前に差し出す。 「その、怒って無いのか?お前より遅く起きて?」 「そこまで、狭くはないわよ!飲み会で遅くなったんでしょ。 羽目を外す事くらい知っているわよ。私は先に行くから、それ飲んだら後から来なさい」 そう言って、ルイズは部屋を出る。 ニューは手の冷たい感触に目を移す。 (まぁ、病人に優しくするのと同じかな) その時は、そう考える事にした。 そして、一週間 相変わらず、違和感が消え無い。 「……おかしい」 目の前のスープが醒めるのも気にせず、思考する。 別段変りない日常と言える。 しかし、目に見えて分かる事――ルイズの制裁の数が激減した事である。 それまでは日に一度は何らかの理由(たまにニュー自身のせい)で振るわれた暴力的行為が、 ここ一週間全く無かった。 また、何かと理由をつけ連れまわされたが、最近はルイズが用事があるのか一緒に居る時間も減った。 それに、いろいろと世話係の真似事も減った気がする。 「どうしたの、ニュー?」 ルイズが聞いてくる、今日は珍しく二人だけの様である。 この世界に慣れたのもあるが、最近では六人が一緒の言うのも必ずしも不文律と言う訳では無くなってきた。しかし、見渡してもいるはずであろう、キュルケ達が居ない。 二人で居るのが、最初に会った時よりも苦痛に感じる。 苦痛から解放されたい、そう思いニューは踏み込む事にする。 「……ルイズ、もしかして、私はお払い箱なのか」 人は解らない事があると、最悪の事態を考える。それを極論と言う。 最悪なのは理由をつけて殺したりするのもいる…… 使い魔の日が出来た理由の一つが、何となくニューの心に響いてくる。 ありえないと思う、しかし、最近のルイズの様子は明らかにおかしく、正常な判断を奪いつつあった。 「何言ってるのよ、そんな事する訳ないじゃない、なんなのよ?」 「なら言わせてもらうが、この間からおかしいぞ、なにがあった?」 ニューは素直に疑問をぶつける。このままではこちらの身が持たない、怒っている事があるなら謝ろう。 そう考えるニューに対して、ルイズとの距離は縮まりそうにはなかった。 「……最近妙に優しいのが気になる、それに、何をしているんだ?」 「別に他意はないわよ、ただ、この間の感謝の日で思う所があったのよ」 「何だそれは?」 「アンタこの間、お菓子を喜んで食べてくれたじゃない? あの時、ほとんどシエスタに手伝ってもらったのよ」 それは知っている、宴会で彼女のルイズ達に対する愚痴は、 聞かれたら大事になりかねない様な内容であった。 ルイズは続ける。 「けど、アンタは喜んで食べてくれた、だから、今度は私一人の手で作りたいの」 ルイズの手にはよく見ると火傷の様な跡がある。 この間の傷かと思ったが、思えば、自分があの後、魔法で治したのだ。 「じゃあ、お前はお菓子作りを習っているのか!?」 「なによ、悪い!?」 「いや、悪くはないが……」 予想外の理由にニューは素直に感心する。 どうやら、シエスタに手伝ってもらった自覚はあるようだ、 「この間のやつが、私の本気だと思われるのは不本意なのよ。 アンタには私の有難さと凄さをもっと、もっと、思い知らせてやるんだから」 「色々と思い知らせれてはいるんだが……まぁ、ありがとう、ルイズ」 少し悪い事をしたかもしれない。ニューは少しそんな事を考えた。 「あっ、ニューさん、まだ生きていたんですね!」 そんな事を言われるのは、どちらかと言えば敵と対峙していた時だ。 しかし、振り返るとそこには敵では無く、自分にとっての味方であった。 「シエスタ、どうしたんだいきなり?」 メイドの中でも分り易い容姿の黒髪の少女を見ながら、彼女の言葉に少し驚く。 彼女が何か言う前に、さっきのやり取りを思い出し、ニューは、彼女の弟子の腕を聞こうと思った。 「そうだ、シエスタ、最近ルイズがお菓子を習っているようじゃないか? どうなんだ、出来の悪そうな弟子だが、私からも面倒見てやってくれ」 ニューの言葉を聞いて、シエスタは話題を提供する口を固くする。 何か禁忌に触れるかの様に辺りを見回しながら、ニューに顔を近づける。 「その事なんですけど、ニューさん……」 周りの音に聞こえないようにした訳では無い。 ただ、シエスタが止まっただけだった。 「ん、どうしたシエスタ?」 「なっ、何でもありません、ルイズ様はとっても筋がいいようです。 近いうちに、ご自分で出来るようになりますよ」 「そうか、しかし、忙しかったか?」 「はい、すいません。失礼します」 そう言って、足早にシエスタはその場を離れる。 (まぁ、暇な時に聞いてみるか) 忙しいらしいシエスタを引き留めたと感じて、ニューは少し後悔する。 その日、ニューは珍しい体験をする。 何時も、大体はルイズ達三人は何かしら、もしくは、どちらかと会う。 しかし、その日に限ってはキュルケやタバサ達と会う事は無かった。 もちろん、彼女達の使い魔とも…… 数日後 「ニューさん、ニューさん」 小声で自分の名を呼ぶ声は、自分と親しい者の声であった。 彼は振り向き、声を現すかのように、物陰に隠れた少女を見つける。 「シエスタ、どうしたんだ?」 ニューの声を聞いて、彼女は何かを警戒するように近づく。 「ニューさん、この間の件なんですけど」 「ん?ああ、ルイズのお菓子の件か、何かあったのかい?」 この間の件を思い出し、シエスタに聞きそびれていた事を思い出す。 「それなん……」 会話の途中で、シエスタが止まる。 「シエスタ、どうしたの?」 ニューの疑問を、彼の声では無い物が代弁する。 「ミス・ヴァリエール……」 彼女の顔から色が消える。 ニューが振り向くとそこには、昼食を終えたらしいルイズが居た。 「シエスタ、ちょうど良かった。午後からあなたに、お菓子作り手伝ってもらいたかったの」 どうやら、ルイズはシエスタにお菓子作りの手伝ってもらいに来たらしい。 シエスタの回答を待たず、ルイズはシエスタの手を掴み、厨房へと行こうとする。 「これから、お菓子作りの練習か?」 「そう、リハーサルも兼ねて……」 ニューの方に向きなおり、ルイズが笑顔で応じる。 初めて見た時の様な、ニューにあまり見せた事がない、華やかな笑顔であった。 そのまま、彼女達はニューの視界から消えて行った。 「随分、大袈裟だな……まぁ、シエスタが言ったからって、 ルイズが食べれる物を作るのは大変そうだよな」 結局、ニューは珍しく午後の時間をコルベールの所で過ごした。 意外な事に二人の会話は弾んだ。 少なくとも、ニューが日の暮れた事に気づかなければ、ずっと喋って居た。 夕食を取ろうと思い、食堂に向かう。しかし、ルイズは居らず。 たまたま、そこに居たケティとミリーナの近くの席に座る事にした。 しばらくすると、ニューが何かにぼんやりと気づく。 「そう言えば、最近、料理にハシバミ草出ないな」 付け合わせ等に使われる香草が、ここ数日無い事に気づく。 最初気付かずに食べてしまい、文字通り苦い思いをしただけに、食事の時に何気に注意を払う癖がニューには出来ていた。 「なんでも最近、仕入れたハシバミ草が無くなっているそうですよ」 ソテーにつけられたグリーンピースと格闘しながら、ミリーナは答える。 「まぁ、あまり好で食べる生徒が居ないですからね、ミス・タバサくらいじゃないですか?」 「タバサか……そう言えばここ数日、タバサ達やキュルケ達に会っていないな」 ここ最近、彼女達と会っていない事に気づく。 しかし、外国の留学生である彼女達なら、何かしらの理由で帰省する事くらいあるだろう。 「へぇ、珍しいですね、六人一緒のイメージが強いのに」 何かと目配せをしたケティが話に加わる。 ニュー達は六人で一つの認識らしい。 視線の先には、複数の男達がこちらを――主にケティの方を見ている。 「そう言えば、聞きました? ここ最近、夜になると女子寮の地下から悲鳴が聞こえてくるんですよ」 ミリーナが話題を変える。 どうやら、一番喋りたかった話題を切り出せて先程より勢いがある。 しかし、二人の反応は彼女の勢いに追随する者は無かった。 「まぁ有りがちだな、典型的な怪談話だろう」 「怖い話なんかしないでよ、だいたい、地下はただの物置じゃない、反省室は別の所で数十年前に無くなった筈よ」 ニューは心理的、ケティは知識と情報面でミリーナの話を一笑する。 「なんですか! 二人とも面白くないですね」 せっかくの話題をあっさりと終了させられミリーナが顔をふくらませる。 「まぁ、そう言わないでくれ。その手の話は何処にでも有るのだし。 私の居た所でも、夜になると異国の甲冑をきた騎士の霊が現れて、倒すと絶大な力を持った剣を与えられると言われるのがあるからな」 「怪談と言うよりも、それは辺境に居るドラゴンの類ですよ」 ニューの話を聞いて、ケティが感想を述べる。 結局、ルイズは現れなかった。 二人と別れ、ルイズの部屋に戻る途中、タバサの部屋から声が聞こえた。 二人が帰って来たのか?そう思い、ニューは部屋をノックする。 返事がない。しかし、ドアに近づくと声の原因は解った。 「おい、ニュー、そこにいるのか!? 生きているか?」 声の主は、普段、タバサの部屋に置かれているデルフリンガーの物であった。 「デルフかどうした?」 「誰も居ないか?居ないならすぐに入れ」 デルフが緊張した声で、指示する。 ドアノブを回すと小気味よい音がする。どうやら、開いているようだ。 部屋の片隅にデルフはいた。 「どうした、そんなに慌てて、二人に置いて行かれたのか」 ニューの軽口に対しても、デルフは緊張を解かなかった。 「そんなんじゃねぇ、いいかニュー! 相棒は……」 デルフの言葉は途切れる。 彼女はそこに居た。 「タバサ?」 青い髪の少女は、この部屋の主だった。 彼女は、いつも通りの無表情をニューに向ける。 「何しているの?」 おかしな言葉では無かった。 「デルフに呼ばれてな、そう言えばゼータを知らないか?」 「知っている、シルフィードと一緒」 タバサの無表情は変わらなかった。 その中で、一瞬、デルフが震えた気がするが、気にしない振りをする。 「そうか、ちゃんと授業に出た方がいいぞ、コルベール先生が君達の出席日数のことを気にしていたから」 「……わかった」 そう頷いたタバサの横を、ニューは通り抜けた。 そして、そのまま部屋を出て、ニューは一息ついた。 「……で、結局探検する事になったじゃないですか」 「気になったんだ」 さほど広くない、暗い空間に似合わない声が響く。 次の日、三人は女子寮の地下に居た。 “地下に行け” 昨晩、タバサの部屋を出る時、ニューにしか聞こえない声で得言った言葉が引っ掛かる。 地下――何となく、二人との会話で連想した場所を思い出す。 しかし、中は案外広く場所が分からないので、とりあえず、二人を探索に誘った。 「デルフがあんな態度を取るのが珍しかったんでね、何かあるんじゃないかって」 デルフが、何故そのような事を言ったのか解らなかったが、ここ数日の気になる気持ちを少しでもうやむやにしたかった。 「怖い事言わないでください、この地下はずっと物置だったんですよ」 ケティが辺りを見回しながら、歩く。 暗いと言っても、所々にランプがある為、視界がない訳では無い。 しかし、簡単に終了するすると思っていたが、思いのほか広く暗い空間に少し怯え気味だ。 実際には、物置と言うだけあり、部屋の中に備品が置いてあるだけで、変わったものは無かった。 「次はここですね」 ミリーナが、次の部屋のドアを発見する。 「他のドアより、綺麗だな」 そのドアは比較的新しくできたらしく、他のと比べて、暗い中でも真新しさを感じられた。 「地下は増築されていますからね、多分作られて、まだ、間もないんですよ」 そう言って、三人は中に入った。 部屋の中は、今まで見て来た部屋と何ら変わりなかった。 「……特に何にもないですね」 ケティがおっかなびっくりに応える。 部屋を見回すが、確かに変わったものがある訳では無い。 「そうだな……ん、これは?」 近くの机に手を置いた時、ニューは何かに気づく。 「どうかしました?」 「なにか、触った気がするんだ、ん、これは……」 「あ、ハシバミ草ですよ、これ!」 切れ端程度なので解らなかったが、ミリーナの指摘を受けそれに気が付く。 解りづらいが、それは、確かにハシバミ草であった。 「……なんでこんな所に?」 「あ、解りました、きっとハシバミ草を盗んだ犯人が、ここで1人ハシバミ草パーティーを開いていたんだわ」 「んなわけないでしょっ!けど、本当に何でこんな所にあるんですかね?」 ミリーナの指摘の後の、目的は確かに気になる。 「冗談よ、けど、確かに……ん、今そこ何か動きましたわ!」 ケティが、突然何かを感じたらしく、一歩後ずさる。 その方向の先には、ずた袋が数個あった。 (ネズミでもいるのか?) 非常食でもあるのか?そんな軽い気持ちでずた袋を開ける。 ニューはそこで固まった。 「何かありま……」 なにも反応のない、ニューを見て、ミリーナも中から覗き込み、そして、固まった。 ケティはそんな二人のリアクションを疑問に思い、遠くから聞き返す。 「な、なんですの?もしかして、ネズミ?もしくはアタッチメント式多脚間接ムカデ?」 指摘したくなるような長ったらしい名前も、二人の反応を呼び起こす事は出来ない。 しかし、彼は疑問に答えるように袋を開けた。 ……そして、ケティもすべて理解した。 袋の中には、シルフィードと一緒に居る筈のゼータの姿があった。 「きゃぁぁぁ!」 真っ先に反応するケティは感受性が豊かだった。 「な、何ですかこれは!?」 心中で叫び続けたミリーナの声にならない声が、やっと世界に届く。 ゼータはロープで縛られて、何か紙を張り付けられていた。 それはこう書かれていた“砥石 竜の爪等、ご自由におとぎ下さい” 良く見ると、ゼータの全身は爪跡で無数の傷が刻まれている。 そして、小声で何かを繰り返し呟いている。 「ハシバミ草おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草 おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草おいしいハシバミ草おいしい…………」 ゼータはこの世界に居なかった。 (そうか、そうだったのか……) ニューはある答えにたどり着こうとしていた。 気になって、他の袋にも手をかける。 「ダブルゼータさん!」 ミリーナの叫びが、更に自分の考えを真相に近づける。 そこには、ゼータ同様にダブルゼータが居た。 紙にはこう書いてあった“接待中 ご予約はお早めに” ダブルゼータはゼータとは逆に見た目的には異常はないように見えた。 しかし、ある事に気づく。 「……キスマーク?」 ダブルゼータには、かなり大きな唇の跡が無数に刻まれていた。 「もじゃもじゃ……顔に当たる……いや……やめて……」 震えている。何かからの恐怖で 何があったのか聞くべく二人にリカバーをかけてみるが、反応は薄い。 そして、二人に反応するかのように、最後の袋が動いた。 (まさか!!) そう思い、望みを託し袋を開ける。 だが、ニューの願いは届かなかった。 そこには、頬が痩せこけて、目の焦点が合わないシエスタが居た。 彼女にも紙が貼られていた“試食中 他の方も是非ご賞味ください” 彼女も震えていた。しかし、他の二人よりまだ日が浅いのだろう。 服の汚れ具合が、まだ汚れていなかった。 「シエスタ、しっかりしろ!リカバー」 まだ助かるんじゃないか? そう思い彼女を正気に戻すよう魔法をかける。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめはっ!ここは……あっ、ニューさん!」 正気に戻ったシエスタが、ニューを視線に入れる。 最初は嬉しそうであったが、直に顔を蒼白にする。 「ニューさん、逃げて下さい! 殺されちゃいます!」 「……ああ、解ってる」 もはや、何もかもが理解できた。 思えば、それは巧妙であった。 少なくとも沈みゆく船に居る事に、最後までニューは気付かなかった。 そして、鈍い衝撃で意識が消える。現実と別れを告げる。 「ニューさん!」 現実に居るミリーナは、地面に落ちたニューを直撃した石に目を移す。 そして、それはやって来た。 「……あら、こんな所に居るなんて駄目じゃない、ここは用が無い時以外は立ち入り禁止よ」 ……逃げ遅れた、無意識に旅立った彼に事実を伝える声は無情であった。 「……ミス・ヴァリエール……」 声の主はこの世界で最も慣れ親しんだ者であった。 ルイズは部屋の入口に居た。 そして、その脇には、燃える様な赤い髪と冷たい水の様な青い髪の少女達もいた。 「駄目よ、あなた達、ここは関係者以外は立ち入り禁止よ」 キュルケがここに似てはいけない事を促す。 「ミス・ヴァリエール、これは一体どういったことなんですか!なんで、三人がこんな目に!?」 ケティは残酷な殺人鬼を非難する様な悲鳴をあげる。 「あなた達、虐待か何か勘違いしていない? これは、使い魔に対する奉仕よ」 キュルケは事も無げに言う。 奉仕? この、何かに怯える事など、想像がつかないようなダブルゼータが? 二人には話が繋がらなかった。 しかし、ニューが直前に助けた少女はすべてを理解していた。 「聞かれていたんですよ、あの時から始まっていたんです」 説明と言うよりも、独白、まるで罪を懺悔する様に彼女の声が室内に響く。 それでも、二人には話がいまだ伝わらない。 「話が伝わりません、一体どういう事なんですか?」 それを聞いてルイズは笑顔を浮かべる。それは、見た事も無いほど綺麗な笑顔だった。 楽しいと言う感情も、何かを取りつく為に浮かべる物でも無い。 世界の醜悪すらも全てを祝福するかのような、優しい微笑みで有った。 「私ね、ニューが食べて美味しいって言ってくれた時、凄く嬉しかったの。 しかも、よっぽど嬉しかったのか三人とシエスタで宴を開く位だから。 そしたら、宴の中でニューが言ったの。 『ルイズの子守りを世話するくらいなら、騎士の従者の方が十倍は楽だね』って。 私は最初怒ろうと思ったんだけど、でもね、私思う事があったの。 多分罰を与えたとしてもニューは自分の事を認めてくれないだろうって。 だからね、私、ニューにちゃんと私の事を主と認めてもらいたくて、お菓子を作る事にしたの。 シエスタも喜んで協力してくれたわ、だって、私のお菓子をちゃんと食べてくれたんだもの」 ルイズが長い独白を終える。 このプライドの高い少女が怒り以外でここまで素直な感情を出す事など考えられなかったが、二人にはどうでも良かった。 ルイズの独白などよりも、お菓子と言う単語にシエスタが拒絶の表情を浮かべた事が全てを伝えてくれる。 今度はキュルケが前に出る。 女の艶を凝縮したこの美女が、慈母の様な暖かすら感じる。 「私もダブルゼータが使い魔になってから、殿方と交わる機会が少なくなってしまったわ。 彼といるとムードもあったもんじゃないし、それに、並の男に対して興味が無くなるの。 ダブルゼータってどんな男よりも面白いから、一緒に居ると男が嫉妬して寄り付かなくなるのよ」 学院の女王として恋愛事情を一手に引き受けたキュルケの事は、ミリーナも知っていた。 しかし、最近ではケティが恋愛事情の的になり、キュルケの事を時代が終わった等と揶揄する輩がいるのも解っていた。 その原因の一つが、彼女の艶を掻き消すかのような存在のダブルゼータであった。 キュルケは続ける。 「でもね、気が付いたの。 ダブルゼータって意外にさびしがり屋だから、私の事を取られたくないかも知れないんだって。 そう思うと愛おしくて、私も何かしてあげなくちゃって思って、知り合いに頼んで特別な接待をして貰ったの」 「やめてくれ、胸毛は嫌、胸毛は嫌、何で分身しているの? 従妹? いや、質量を持った残像なんてもっと嫌! 椅子にくくりつけないで、膝の上に座らないで。嫌、頬に当たる。 髭が、髭が当た……」 接待と言う単語に何やら、特殊な女性の言葉がダブルゼータの口から洩れる。 「『魅惑の妖精亭』って言うの。そこの店長のマドモアゼル・スカロンとマドモアゼル・マカロンに特別にお願いして接待して貰ったの。『もかもか、もじゃもじゃコース』って言うの」 キュルケの独白も終わり、今度はタバサが出る。 「ムラサキヨモギはおいしい、もっと知ってもらいたい」 先の二人と違い簡潔な言葉と共に、2本の瓶とグラスを取り出す。 「ハシバミ草も好き、食わず嫌いは駄目」 そう言って、タバサが二人の前に瓶の中身を注ぐ。 飲みたくは無かったが、話を円滑に進める上で、二人はそれを飲み干す。 喉に苦みを凝縮された様な味が気管を通り抜ける。 吐き出したら、何が起きるか分からない。 涙すら出す事も許されないような気がして、お互いが心の中で励まし合う。 「美味しさを解って貰う為に、ゼータの好きなお酒にしてみた」 その言葉を聞いて、グラスを見る。 匂いを嗅ぐと確かに、ハシバミ草の匂いがした。 「さて、私達これからニューに対して奉仕をしなくちゃいけないの。 後、シエスタにも日頃のお礼をしようとおもってるの」 そう言って、ルイズは手のトレイを開ける。 中にはシンプルなタルトが乗せられている。 ただ、二人は食べてみたいとは思わなかった。 「悪いけど、あなた達は出て行ってくれる? それとも、ニューの分も欲しいの?」 気が付いたら、ミリーナの部屋に居た。 駆け出した。 ただ、それすらも覚えていない位走ったのだろう。 ケティを見る。 彼女の顔も自分と同じ顔をしているのだろう。 その日、昔みたいに二人は一緒のベッドで寝た。 家庭教師に初恋した話も、将来の事を語り合った思い出も、今日の出来事で消えうせるだろう。 地下の音は聞こえない。 ニューとシエスタの声が聞こえるような気がした。 二人は忘れる事にした。 数日後、何やら誓約書らしき物を首に掲げたニュー達を見かけたが、何かやらかしたのだろうか? 原因を自分達は知っているような気がする。ケティに言ったが、彼女は知らないと笑っていた。 たぶん自分の気のせいだろう、ケーキを見て何故か恐怖感を覚えたが、日常は変わらない。 また数日後、今度は金髪の気障そうな少年が鎖をつけて巻き髪の少女に引っ張られている。 ケティはその少年につけられたキスマークをどこかで見たような気がした。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは後世の子供達から、絶大な知名度を誇る。 偉大なるメイジ「虚無のルイズ」が異世界の使い魔に自身の手作りケーキを食べさせて、 絶対の忠誠を誓わせた事から、「感謝の日」はこう呼ばれている。 「制裁の日」と…… 日頃悪い事をしてきた子供は、感謝の日にお仕置きケーキを食べさせられる。 ルイズの名前は、ハルケギニアの子供達にとって恐怖の対象であった。 「仲間が欲しいのなら、やる事が違うだろ!」 キャプテンガンダムVS完全悪大将軍 ジョセフ 今、決着の時! 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前ページ次ページゼロの使い魔クロス トリステイン魔法学院 ヴェストリの広場 シンが決闘の場所に指定されたそこに到着したときには、ギーシュを取り囲むかのように学生達の壁が出来ていた。 集まった理由はたったの一つ「馬鹿な平民が貴族に決闘をうった」と言う情報を聞いて、暇つぶしにということである。 「逃げずに良く来たね、その事だけは褒めてあげよう!! だが、逃げた方がよかったとすぐに思う事になるよ」 シンの姿を認めたギーシュは、芝居がかった態度を取りながらその手に持った薔薇の形をした杖をシンへと向ける。 「これで最後だ、シエスタに謝れ、そうすれば俺も謝ってやる」 しかし、シンはそんな事は意に介さぬ様子でギーシュに向かってもう一度そう通達する。 「…フフフ、どうやら、本気で一度死んで見なければわからない様だね、ミス・タバサには申し訳ないが、躾けが出来ていなかったと言う事で チャラにして貰おうか!!」 シンの言葉に余計に激怒したギーシュはその杖を振るい、青銅でできた戦乙女のゴーレム―ワルキューレ―を召喚する。 「僕は青銅のギーシュという二つ名を持つメイジだ、だからこのワルキューレで君の相手をさせてもらう、否とは言わないだろうね?」 「別にいいさ、俺だって武器を使うからな」 そんなギーシュの言葉に呼応するかのようにシンもナイフを抜刀して戦闘態勢にはいる。 「鉄のナイフか… 確かに鉄は青銅よりは上だ、だが、平民風情が持てる鉄で僕のワルキューレに勝てると思うな!!」 シンのナイフを見て一瞬目を細めたギーシュだったが、そう叫びながら素手のワルキューレを動かしシンに攻撃を仕掛ける。 ガキィィーーーン!! 「クッ…!!」 シンはその一撃をナイフを盾にするようにして防ぎ、その勢いを利用してワルキューレとの距離をとる。 「耐えたか、少しは出来るようだね」 そう言うとギーシュはまたワルキューレを動かし、ギーシュの指示通りにワルキューレはその拳を振るいシンへと襲い掛かる。 しかし、シンも伊達にエースの証である赤服を着ていたわけではない、ワルキューレの攻撃をギリギリのラインで見切り、回避する。 そしてワルキューレもそんなシンに次々と追撃を仕掛け、反撃の隙を与えないようにと襲い掛かり続ける。 だが、シンは慌てず冷静にワルキューレの攻撃の間合いを読み、その一撃の速度を肌で覚え始め、段々と回避行動にも余裕が出来始めていた。 「えぇい、早くしとめるんだ、ワルキューレ!!」 その事をギーシュも理解したのか、段々とワルキューレを操る動きに焦りの色が見え始め、其れを反映するかのように攻撃だ段々と大振りになってくる。 「貰った!!」 当然、実戦慣れしているシンがその大振りの攻撃によって生じる決定的な隙を見逃すはずは無く。 正面からナイフを深くワルキューレの足の関節に突き入れるとそのまま半円を描くように背後へと抜け、行き掛けの駄賃と言わんばかりにその足に蹴りをいれて離れる。 「フッ、残念だったね、その程度のキックで倒れるほど僕のワルキューレはもろく…」 ズッドォォォン!! 勝ち誇ったようなギーシュの言葉は、皮肉にもワルキューレが地面へと倒れ、自重によって崩壊する音で遮られた。 そう、ナイフによって間接を大きく切り開かれ、そこを蹴られる事で大きく体重を傾けさせられ、其れを支えきれず崩壊したワルキューレの音で。 もしも、ギーシュの言うとおりにシンのナイフが唯の鉄製なら如何に青銅とはいえワルキューレを切り裂くことは出来なかっただろう。 だが、シンの持つサバイバルナイフは唯の鉄ではない、プラントが誇るレアメタルによって作られた特注品のサバイバルナイフだったのだ。 これはシンが特別に持っている訳ではない、アカデミー卒業時に赤服だった学生達に与えられたエースの証という意味での逸品である。 赤服はプラントの誇りをあらわす鎧、レアメタルのナイフはプラントを守り、敵をなぎ払う剣をイメージして渡されるという事である。 そして、そのレアメタルで作られたナイフは並みの硬度と切れ味ではない、MSサイズの刀を用意すれば戦艦さえも切り裂ける程の逸品である。 だからこそ、本来切り裂く事に特化していない筈のナイフですら、鋼鉄ならまだしも、青銅や鉄位ならば十分に切り裂く事が出来るのであった。 そして、ワルキューレがナイフ一本で倒されたという現実を受け入れきれないのか、ギーシュも、周りの貴族たちも呆然と立ち尽くしていたのだが。 「まだ、やるのか?」 シンのそんな言葉により我を取り戻すと、ギーシュは憎悪の、他の貴族たちは畏怖の目でシンへと視線を戻す。 「…フウッ、確かに、ワルキューレが倒された事は認めよう、いささか遊びすぎたようだね、ここからは本気でいかせて貰おうか」 ギーシュはそういうと杖を六度振るい、其れに反応するかのようにワルキューレが六体、新しくシンの目の前に召喚される。 そして、そのワルキューレたちは先ほどのように素手ではなく、接近戦を警戒しているのか全員が槍の様な武器を持っていた。 「僕は最高七体のワルキューレを召喚できる、先ほど君に一体倒されたから残り六体が限界、そして素手では君に無礼だろうから武器も持たせ た…」 ギーシュはそこまで言うと薔薇の杖を顔の真ん前まで持ち上げ、一度その匂い嗅ぐ素振りを見せると、シンへと向かって突き出すように振るう。 「……本気なんだな?」 そのワルキューレ達が持っている武器を見て、シンは冷めた瞳でギーシュをにらみつける。 「勿論さ、使い魔君、勝負再会といこうか!!」 だが、ギーシュはその瞳が表す言葉の意味に気付けないまま、シンに対してそう返した。 そして、その言葉とともにワルキューレ達は各々が持つ槍でシンへと攻撃を開始し、シンも流石に多勢に無勢という様子で必死に回避行動を開始し始めた。 「ふふふ、流石にこの数相手では勝ち目は無いようだね、今なら、土下座して謝れば許してあげても良いよ?」 そう言いながらもギーシュはワルキューレを操り、段々とシンの逃げ場をつぶすようにして包囲し始めていく。 だが、ギーシュは気付くべきであった、ほぼ包囲し終わったというのに、シンが不敵な笑みを浮かべていたという事実に。 それに気付けないままギーシュはシンを包囲し、それでも降伏しようとしないシンに向かって一斉に攻撃を仕掛けたその時だった。 シンは姿勢を低くするとほぼ同時に自分の正面に居るワルキューレの足元へと逃げ込んだのだ。 最初のワルキューレを切り裂いたナイフの切れ味を恐れたギーシュは、必死にシンを倒そうとワルキューレ達を動かす。 足元にもぐりこまれたワルキューレがシンを蹴りだそうと、そして残るワルキューレが槍でシンを攻撃しようとするのだが。 其れこそがシンの狙いだった、即座にシンは自分を蹴りだそうとするワルキューレの背後に回り、槍の攻撃の盾にする。 そして槍もワルキューレも同じ青銅である、その結果攻撃の盾にされたワルキューレと、それに攻撃した青銅の槍全てが破壊される。 その結果ワルキューレの残りは五体、そして槍は破壊されたワルキューレが持っていた一本だけになってしまったのであった。 「ば、馬鹿な… 僕のワルキューレが、同士討ちをするなんて……」 ギーシュは自分のワルキューレが命令をしたわけでもないのに同士討ちしたという事実を認識しきれずに愕然としていた。 何故同士討ちしたのかという説明するならば、其れはたった一言で終わる、ワルキューレがセミオート操縦だったからという事だ。 セミオートは目標を指示してどんな行動をするという命令は出来るが、その後の行動自体はワルキューレ自体の判断で行われる。 そしてセミオートの最大の欠点は、急に出現した障害物等に柔軟に対応しきれないという事と急停止がほぼ不可能であるという事。 その結果「シン」を「槍で攻撃する」という命令を受けたワルキューレは、突然現れた「盾にされた」ワルキューレに反応しきれず攻撃してしまった、という事である。 「之で終わりか? なら、シエスタに謝れ」 淡々とした、だが鋭い視線でギーシュを睨み付けながらのシンの台詞に、ギーシュは完全に恐怖を覚えた。 謝ってしまおうと、元々悪いのは二股をしていた自分だったのだからと恐怖に怯えるギーシュの理性が再び訴えかける。 だが、其れを受け入れる事は出来なかった、ギーシュには、その訴えが正しいものだと理解しながらも、受け入れる事は許されなかった。 「馬鹿に、馬鹿にするな…!! 平民風情が、使い魔風情がこの貴族である僕を馬鹿にするな!!」 そう、彼の歪んだ―ハルケギニアではある意味当然の―貴族としてのプライドが、平民に謝る事など許さなかったのだ。 だが、冷静さを欠いた指揮で倒せるほどシンは易しい相手ではない、じわじわと削り取られるように一体、また一体とワルキューレが撃破されていく。 しかし、シンとて生身の人間である、いくらコーディネイターとはいえ戦闘のための特別な調整を受けていたわけではない。 勢いよく動き回れば息切れもするし疲労もたまる、そしていくら強く握り締めていても掌に汗もかけば衝撃で麻痺だってする。 幾らワルキューレを斬れるとはいえしょせんはナイフ、一度に切り裂ける限界などたかが知れているため何度も何度もきりつける必要がでる。 まして、ギーシュとて馬鹿ではない、最初のワルキューレの撃破された原因をよく理解し足の関節部分をしっかりと守っている。 その結果、一体のワルキューレを倒す為の時間が長くなり、それに比例するようにシンの疲労はどんどんと溜まっていく。 その疲労が極地に達したその時、六体目のワルキューレの間接を切り落とし、戦闘不能にしたのとほぼ同時に足を縺れさせ、その手に握り締めていたナイフを落としてしまう。 シンは急ぎ体勢を立て直してナイフを拾おうとするが、既に限界に近い肉体は言う事を素直には聞いてくれない、そしてその油断を見逃してくれるはずもなく… ドスゥン!! ベキッ、ゴキリィッッッ……!! 「ウッ…クアァアアアアアアアアッッ!!」 「ふぅ… まったく、手間を取らせてくれるね、本当に」 ナイフを掴もうとした左手をワルキューレに強く踏み込まれ、シンの左手の骨は激しい悲鳴をあげる、恐らくは骨が折れ砕けたのだろう。 だが、ギーシュはそんなことは意に介さぬ様子で、憎悪の炎を宿した瞳でシンをにらみつけている。 「平民風情が、この誇り高きトリステイン王家の元帥を父に持つこのギーシュ=ド=グラモンをここまで梃子摺らせるとはね、いっそ賞賛に値す るよ」 ギーシュはそういいながらもワルキューレの足をシンの左手から動かす様子はなく、寧ろその手に持たせた槍をシンの頭に向けようとしている。 だが、シンにはそんなことはどうでもよかった、それ以上に聞き逃せない言葉があったのだ…… 「お前、今、なんて言った… お前の父親が、何だって……?」 「やれやれ、平民は学がないとは思っていたがつい先ほどの言葉まで忘れているのかい?僕の父親は王家に仕える元帥だ、それがどうかしたか い?」 その言葉を聴き、その意味を正確に理解したその時、シンの脳裏で、今までの様な赤い種子ではなく、闇の様な真っ黒な種子が弾けた。 そしてギーシュはシンが「恐怖」を感じていると思い、勝ち誇った顔をしながらそう呟く、だからこそ気づいていなかった、気づく事ができなかった。 急激にシンの瞳から光が失われ、まるで漆黒の虚無の様な色に染まっていく様子を、そして、右手がすばやく動き、ハンドガンを手にしていたという事実を。 パンッッ!! 「う、うわぁああああああああああ!?ぼ、僕の左手が、じ、銃!?」 乾いた音が一度、シンの持つハンドガンから響き、発射された弾丸がギーシュの左手を正確に撃ち抜いた。 「軍人の息子が奪うのかよ、罪もない人達から、力ない人達から…… 全てを奪うのかよ!!!」 動揺しているギーシュを射殺さんばかりに睨み付けながらシンは右手一本でワルキューレを押し返し、その足元から自分の左手を抜き、ギーシュに向かって歩み始める。 「ヒイィッッ!? わ、ワルキューレ!!」 完全に動転したギーシュはワルキューレを操り恐怖を排除しようとし、そしてその主の意を汲んだワルキューレが槍をシンの脇腹に突き刺す。 しかし、脇腹を突き刺されたというのにシンは致命傷以外には興味がないとでもいいたげにその傷を一瞥し、鬱陶しげに槍を引き抜くと再び銃を構え。 自分がワルキューレに刺された所とまったく同じ場所を、ギーシュの脇腹に狙いを定めると引き金を引き、撃ち抜いた事を確認するとゆっくりと歩き始める。 「痛いか?痛いよな、でもな、シエスタにした事に比べたら、お前達が「平民」に与えてきた痛みと比べたらそれくらいなんて事ないだろ?」 まるで周囲全ての貴族に言い聞かせるかのようにシンはそう呟くと痛みで蹲っていたギーシュの頭を傷ついた左手で掴み、右手でハンドガンを突きつける。 「俺はさ、子供のころ戦争に、「強い力」に大切な人達を全部奪われて、それが悲しくて、それが悔しくて軍人になったんだ。 自分みたいな人間をもう作りたくなかったから、一人でも多くの、「罪も無い、力も無い」人達を守りたくて…… だから、だから俺はお前を、軍人の、力ない人を守るべき人間の息子なのに、逆に力ない人を虐げて、全てを奪おうとしているお前のことが許 せない!!」 シンがそう叫び、ハンドガンの引き金を引こうとしたその瞬間、周囲で見ていた貴族達が惨劇を覚悟したその瞬間、唯一動いていた少女がいた。 「空気の鎚よ、彼の者を強く打ち据えよ、エアハンマー!!」 少女のその呪文が響くとほぼ同時にシンは空気の鎚によって激しく殴りつけられ、勢いよく地面へと叩きつけられる。 「タバサ…… あんたも、こいつらとおなじ、かよ……」 シンはその魔法を詠唱した少女を、使い魔であるシンの主人のタバサに向かって憎悪を宿した瞳で睨みつけていたのだが。 「…あなたは、命の重みを知っているはず、だから止めた……それだけ」 シンから一切視線をそらさず、真摯な音色を含んだそのタバサの声を聞くと何故か嬉しそうな顔をし。 「そっか… 俺、また繰り返す所だったのか……… サンキュー、タバサ」 そう呟くと、そのまま倒れたシンの体に襲い掛かってくる疲労の誘いに乗るように、ゆっくりと意識を手放していった。 タバサはそんなシンの横まで歩いていくと、シンを起こさないように左手と脇腹の怪我を癒すために治癒魔法を唱え始める。 「ギーシュ!!」 多くの貴族がタバサとシンが織り成す空気に呑まれ、ただ魅入っていたのだが、金髪ロールの少女がただ一人ギーシュへと走りよった。 「あぁ、モンモランシー」 ギーシュにモンモランシーと呼ばれた少女は即座に自分の持つ秘薬を使いギーシュの傷を癒すと、タバサをキッと睨みつける。 「ミスタバサ!!その使い魔を早く処分して頂戴!!」 「……何故?」 「ギーシュにあれだけのことをした使い魔なんて危険すぎるわ!! 今回はまだよかったものの何時また貴族に牙を向くかわかったものじゃないわ!!」 「大丈夫、彼は獣じゃない」 怒髪天を突く勢いのモンモランシーとそれを流水のように受け流しているタバサ、そして当然そんなやりとりでモンモランシーが納得するはずはなく。 「いいえ、獣以下よ!! 貴族に暴言どころか殺そうとするなんて… いいわ、貴方が処分しないというなら私が処分するわよ!!」 そう宣言すると同時にシンにトドメをささんとその手の杖をシンへと向けたのだが…… 「やめるんだモンモランシー!! これは僕が挑んだ決闘で、僕は負けたんだ、これ以上僕の誇りを、そして彼の誇りを辱めないでくれないか?」 「ギーシュ……」 治療を受け終わったギーシュがそれを静止し、ゆっくりとタバサの方へと歩み寄っていく。 「ミスタバサ、彼のことでひとつだけ聞きたいことがあるんだが…」 「……私にわかることなら」 タバサはギーシュの言葉に反応こそしているが顔はシンに向けたままで、治癒魔法を発動し続けている状態で対応する。 モンモランシーがそんなタバサの態度に激昂しかけるがギーシュは手でそれを制して言葉をつむぎ始める。 「銃を使い、メイジを相手にする場合は治癒が間に合わない心臓か頭を狙うのが基本、そうでなければ魔法で回復されるだけで意味は無い… そして彼のあの腕なら一撃で僕の頭を撃ちぬくこともできたはずだ、だからこそ気になるんだ、なぜ彼は態々僕が攻撃した場所だけを狙って狙撃したのか」 ギーシュの言葉に少し考えるそぶりを見せたタバサだったが、「これは私の意見でしかない」と呟いた後にギーシュの顔を見ながらこう答えた。 「彼は、奪われる痛みを知っている、そして人が一方的に虐げられるのを極度に嫌っている、むしろ虐げる人物を憎んでいる。 だからその痛みを知らない貴方に教えようとした、そして貴方が軍人の息子と知り、憎しみを抑えきれなくなって貴方を殺そうとしていた。」 普段無口な少女にしては珍しいほどの長文の言葉に彼女の親友であるキュルケという少女が激しく驚いていたがそれは今回は特に関係は無く。 その言葉を聴き、シンに投げ掛けられた言葉を吟味していたギーシュだったが、ゆっくりとタバサに向かって言葉をつむぎ始める。 「ミスタバサ、彼が起きたら伝えていただきたい、ギーシュと言う名の男が君に強く謝罪したいと思っていると言うことを」 「わかった… でも、それは貴方がするべきことをしてから」 「あぁ、わかっているよ、シエスタと言うんだったかな? あの少女にしっかり謝罪しないといけないね……」 ギーシュはタバサの言葉に頷きながらそう答えると、ゆっくりと貴族達が集まっている方向へと歩き出した。 自らの敗北と、これから先、シンに使い魔だから、平民だからと言う理由で手を出すことは自分が許さないと言う宣言を行うために…… それから三日後、シンは完全復活し食堂へと戻り「我等が勇者」として料理長マルトー率いる食堂従業員一同に大歓迎を受けることとなる。 シンはそういう特別扱いを嫌って今までどおりでいいと言っていたのだが、逆にそこがいいとマルトーに気に入られてしまった。 そしてそんな光景を見て段々とシンに対する敵意を募らせている少年、サイトの姿があったのだが、それには誰も気づく事ができなかった。 そしてその事が後に大きな引き金となるのだが、そのことを知る人物は今はどこにもいなかった……… おまけのおはなし 実は、シンの傷は一日で完治しており、三日も病床に臥している必要性は無かったのだが…… シン「ん……ここ、は、俺は……」 シエスタ「シンさん!! おきたんですか?もう大丈夫なんですか!!」 意識が覚醒したのかゆっくりと目を開き、顔を上げようとするシンに凄い勢いで駆け寄っていくシエスタ。 しかしシンはシエスタの接近に気づくことは無く、手で目を押さえながら頭を上げていき…… ポ ヨ ン ♪ シン「………ん?」 ムニュウゥッ♪ 突然頭にぶつかった柔らかい感触を疑問に思いながら、一体何なのかとそれを思わず触ってしまったシン。 その脳裏にはシルフィードにヨウカンと呼ばれた少年の「このラッキースケベ」と言う言葉がエンドレスに響いていた。 そう、その言葉が意味するシンの頭にぶつかり、思わず手で触ってしまったものとは……!! シエスタ「そ、その、私、シンさんなら寧ろ望んで御相手しますけど、まだ日も高いですし、い、いえ、いやと言うわけではないんですけど…」 オーバーヒートして暴走寸前のシエスタのたわわに実った胸を鷲づかみのように触っているシンという光景がそこには広がっていた。 100人中99人が見れば絶対に誤解するこの光景を見たとある少女が、当然その例外である一人に入るはずは無く…… タバサ「………シン」 その冷たい氷のような声を聞いたシンはその少女、タバサの方を振り向くと、そこには杖を構えて呪文を詠唱し始めているタバサの姿が……!! タバサ「…病床だから、絶対安静」 そう呟くとタバサはスリープクラウドの魔法を唱え―流石に病人相手に攻撃魔法は控えたらしい― シンの意識を深い眠りへと誘ったのであった。 そして再び眠りだしたシンの姿を見て、シエスタがとても残念そうな顔をしていたのが実に印象的であった。 之だけならまだよかったのだが、実はタバサが唱えたスリープクラウドの威力が本人の想像以上に強かったらしく昏睡状態になってしまったのだ。 その結果、シンの世話を自分がすると狂信的な勢いで迫るシエスタに、それを解除魔法を探すための本を読みながらも即効却下するタバサ。 そして暇なのかシンを時々甘噛みしようとしたり、そのまま飛行しようとするシルフィードと言うとんでもない状態になっていたのだが。 空気が読めなかったギーシュが「自分がシンの世話をする、せめてもの侘びの一つだから」とシンの世話役を買って出てそれをタバサが承認したのだった。 その事でギーシュはシエスタに酷く恨まれたが、目覚めた後、その事実を聞いたシンには泣きながら感謝され、親友と言えるほどに仲良くなったと言う。 前ページ次ページゼロの使い魔クロス